第3章 月島軍曹と網走監獄
女兵士が珍しいとじろじろ見られることはよくあっても、ここまで無遠慮に見られることはなかった
その男の両頬には、人型の絵が描かれている
「貴女、和田大尉ですかぁ?」
「そ、そうだが」
兵士は頭の先から爪先まで舐めるように見てきた
性的な視線ではなかったものの、ねっとりと蛇のような視線が纏わり付く
「…挨拶もなく失礼だぞ貴様、名を名乗らんか」
「あ、失礼しましたぁ
宇佐美と申しますぅ」
「!?」
「何か?」
「いや…
(こいつが宇佐美か、月島軍曹が心配するほどの顔か?)」
「まあ良いですけど
貴女、鶴見中尉の事をどう思ってるんですか?」
「鶴見?」
「いえそれは解ってるんで良いです
御美しくて勇敢で素敵な人ら」
「え、ちょっと…」
「問題は、貴女が色仕掛をしていないかどうかなんですよ」
「何の話を…」
「篤四郎さんがあんたに目をかけるのは、あんたに利用価値があるからだ!
だから、篤四郎さんに近いのも許す!
だどもそれだけだーすけな!
篤四郎さんがあんたの色目になびく思たら大間違いだで!!」
「(怖い……!)」
宇佐美上等兵の目は完全にイッていた
ここから逃げろと脳味噌が警報をならすが、足がすくんで動けない
「ゴラァ宇佐美イィイィ!!」
「!」
「やばっ」
建物中に響き渡ったんじゃないかと思う程の怒号に振りかえると、青筋を立てた月島軍曹がこちらへ向かってきていた
本当か幻聴か、地ならしが聞こえる
「つきしまぁ!」
月島軍曹に助けを求めると、二人の間に立ってくれた
安心して彼の背中の服にしがみつく
月島軍曹は左手を後ろに回し、背中に掌をそわした
「大尉殿に手ェ出したら、俺がぶち殺すぞ!!」
「やだなぁ、楽しくお話ししてただけですよぉ☆
じゃあボクこの辺で失礼しまーす」
たたたーっと宇佐美上等兵が退散する
月島軍曹はこちらへくるりと向き直した
両手で肩を抱き、怪我がないかと全身を確認する
「何もされてませんか」
「怖かったぁ」
「だから宇佐美には近付かないように言ったでしょう」
「あんなのだとは聞いてないぃ」
「俺の言うことを素直に聞いてくれますか?」
「聞くぅ」
その後、部屋で物音がする度に宇佐美かと気が気ではなく
結局月島軍曹は一晩中部屋の前に立たされた