第3章 月島軍曹と網走監獄
小樽
「何で私まで鶴見に謝りに……」
「大尉のせいじゃなかと!
大尉せいなかれば、あたいは白石を取り戻しちょったんじゃっでね!」
「あーもー何言ってるか分からんけど、私が悪いって言ってんでしょ!
ごめんてぇ!」
鯉登少尉に、如何に自分が悪くなかったかを鶴見中尉に説明しろ、と小樽まで連れてこられた
部屋に入ると、月島軍曹がいた
こちらを見て驚いている
「月島軍曹!」
「和田大尉殿!」
「何じゃ、二人とも仲よかですか」
「「良くはない!」」
「?」
その後の説明で、月島軍曹は鯉登少尉の補佐役兼教育係であることを知った
久しぶりに元気そうな月島軍曹の顔を見られて嬉しい気持ちと、あの夜の事を思いだし恥ずかしい気持ちとがない交ぜになる
そんな心情などつゆも知らない鯉登少尉は、鶴見中尉に叱られるかだけを気にして、ごろごろと床を転がっていた
「鯉登少尉、お気を確かに
ほらほら、頼まれた写真を持ってきましたよ」
「おぉ!」
さっき泣いたカラスがもう笑うように、鯉登少尉は今度は写真に釘付けだった
自分の顔を切り取って、月島軍曹の上に貼ったりしている
「月島、米を潰して糊を作ってくれ!」
「嫌です」
ぷいっと顔を背ける月島軍曹
いつもぶすっとした彼だが、鯉登少尉と話していると雰囲気が柔らかいように見えた
「(鯉登少尉って面白かったのか)」
その時、襖が開き鶴見中尉が入ってきた
鯉登少尉の猿叫が部屋中に響く
「○◇□△◎▽※♯︎○□!!」
「落ち着け、早口の薩摩弁だと全く聞き取れんぞ
深呼吸しろ」
鯉登少尉は促されるままにひとつ呼吸を吐き、吸った
肩の緊張が取れたように見える
「○◇□△◎▽※♯︎○□」
「わからん!」
「ブフォ!!」
思わず吹いてしまった
月島軍曹が視線で"はしたないですよ"とたしなめてくる
いや、これは無理やて
その後も鶴見中尉の言葉に一喜一憂し、絶望しては壁に頭を打ったり、突然脱ぎ始めたと思ったら刺青人皮を服にして着ていたりと彼の奇行は続いた
彼が鶴見中尉に意見を伝える度に月島軍曹は通訳係にされている
「(面倒くさい…!)」
「(鯉登少尉、面白い…!)」