第2章 月島軍曹と刺青人皮
「で、何で私も着物にならんとならんのですか?」
「馬鹿だなー、兵隊服を着るなら、私が駆り出された意味がなあでしょうが
か弱い女だから脱獄囚も油断してしっぽを出す!
……かもしれない!」
「はぁ、なるほど」
「とりあえず、私達の設定は夫婦と言うことで
で、私の兄を探してる体で行こう」
「はぁ」
名付けて、か弱い婦女子の聞き取りに脱獄囚も寄ってきちゃう作戦!
と大きな声で言うと、月島軍曹は終始無表情で答えた
夕張歓楽街
「すみません、兄が一流の芸人になる、と上半身に変な線ばかりの刺青を入れて出ていってしまったのです
どなたか見ていらっしゃいませんか?」
「知らないねぇ
あんた見たかい?」
「いや、私も見てないよ」
「そうですか………ありがとうございます」
とある遊郭の店から月島軍曹が出てくる
「どうだった?」
「全ての店で聞いて回りましたが、駄目ですね
少なくとも利用はしてなさそうです」
「私も女郎に聞いて回ってるが、見たこともないらしい
仕方ない、遊郭は出ようか」
「はい」
二人揃って歓楽街を出る
「後は郊外の温泉か、銭湯か、炭鉱の日雇い労働者になってる可能性もあるな」
「どこから行きます……」
「銭湯はどうせ夜に行くから、今日は炭鉱に行くのはどう思う?
…………?月島軍曹?」
月島軍曹から返事がなかったので、大尉が不思議に思い振り向く
月島軍曹はどこかを見つめていた
「?」
視線の先を見ると、クリクリくせっ毛の女性が立ち止まって子供と話していた
此方からは後頭部しか見えず、顔は分からない
「知り合い?」
「………………はあ」
「お気に入りの女郎に似てるとか?ははっ!」
「………………はあ」
「………、故郷に残してきたお爺様に瓜二つ?」
「………………はあ」
あからさまな生返事にムッとした
月島軍曹の耳を思いきり引っ張って、回転まで加えてやる
「いだだだだだ!
なんですか!?」
「別にぃ~~~」
月島軍曹がこちらを見たのでようやく手を離してやる
よほど痛かったのか、赤くなった耳を擦っていた
「何なんですか!」
「貴様は今私の夫なんだから、私だけを見ていないと駄目だろうが!」
「はぁ、別によそ見はしてませんでしたが…
すみません?」
「さっさと行くぞ愚図!」