第2章 月島軍曹と刺青人皮
第七師団旭川支部
「まーた行方不明?
それも2人」
旭川に報告がてら監視にでも来たのだろう
月島と二人きりで話す
「はっ!
冬の山で三島と小宮が遭難いたしました」
「クソ親父の時にも合計5人が遭難、尾形は脱走兵と…
苦しいなぁ、特にもう今は山もかなり雪融けが進んでるんですけど」
大尉は数個のの中隊を受け持つ
他の連隊と比べると27連隊の兵士の行方不明ないし死亡率の高さが異常であることがより分かった
これの尻拭いをさせられていたのか
お父上が出世しないわけだ、同情するよ
と溜め息をつく
月島軍曹が声を潜めて耳打ちしてきた
「ちなみに、尾形は反乱分子であることが確定致しました
三島を殺したのは尾形で、小宮は尾形の仲間でした」
「あらまー」
「和田大尉殿は、尾形の弟気味の花沢勇作元少尉殿と親睦があったと聞いております」
「………
って、鶴見中尉に言えって言われたのね」
「(……!)」
「大丈夫ですよ
そんな回りくどい事しなくても、出世に興味ないからなんぼでも報告書位偽装してあげますよ」
「………ご協力、感謝いたします」
「そう言う感じだと、三島と小宮の死体はあるわけだ?」
「はっ!
ただ、小宮の方は"損傷"が酷いです」
「よし、尾形が二人を襲ったって報告書を書いとこう」
日露戦争帰りで死に慣れているとは言え、おおよそ町にいるのと同じ婦女子の受け答えとは月島軍曹には思えなかった
"毒婦"と旭川支部で誰かが陰口を叩いていたのを思い出す
「……それより月島軍曹」
「はっ!」
「旭川には大沼団子というものが名物らしくてさ、食べたことはあるか?」
「いえ、御座いません」
「私食べたい!
月島軍曹と一緒に食べようと思って我慢してたんだーへへへ」
にぱっと大尉が笑う
実年齢よりも幼い笑顔に、月島軍曹は吊り上げていた眉毛が下がるのを感じた
「では、行きましょうか」
「やったぁ!」
「(俺なんかと飯に行けることの何がそんなに嬉しいのやら)」
大袈裟にはしゃぐ大尉を見て、月島軍曹は
この子はずっとこうやって笑っていれば良いのに、と考えていた