第2章 月島軍曹と刺青人皮
「女性が兵士なんて始めて見たな
俺は杉元佐一
あんた、名前は?」
「ゆめちゃん、こいつが幼なじみの寅次だ!
……馬鹿寅次、恭子ちゃんとはそんなんじゃねぇよ」
「ゆめちゃん、顔色が悪いな
暫く旗手も休んでるみたいだったし、体調悪いのか?」
「……………久しぶりだな、ゆめちゃん
俺の雰囲気が変わったって?
………どうだろうな」
「ゆめちゃん……………
寅次は…………………」
「ようやく戦争も終わったな
俺、この戦争で退役するよ
ゆめちゃんは残るのか?」
「……なぁ、あんたの変な噂を聞いたんだが、嘘だよな?」
「は?本当なのかよ……
くそっ、何で今まで気付かなかったんだ…!」
「殺してやる!
あんたのことを傷付けた奴ら、全員殺してやる!!」
佐一とはそれきりだった
聞いた噂では、私を庇って上司達を殴ったせいでクビという形で兵を去り、まともな退職金も貰えなかったと聞く
「でも、何で佐一が金塊争奪戦なんかに………」
鶴見中尉が指示し、舟が止まる
最後に佐一が舟から此方を伺っていたが、それはただ第七師団との距離を確認したのか、誰か特定の人物を見ようとしたのかは定かではない
後ろから凝視する鶴見中尉の視線に、大尉は気付かなかった
「ニシンに群がるクジラたち
そのクジラを待ち構え、まんまとありつくシャチたち
ではその頂点のシャチを喰らいたければ
シャチになって戦うか?
あるいは殺しあって底に沈んで来たシャチの死骸を喰う……
気色の悪い生き物になるか」