第2章 月島軍曹と刺青人皮
「佐一………?」
「ゆめちゃん!?」
まさかの再開だった
第一師団で仲良くしていた人物にこんな所で出会うとは
「泥棒カモメが御殿まで入ってきたか!
試し撃ちにちょうど良いわ!」
主人がマキシマム機関銃をぶっぱなす
「待って!
佐一が死んじゃう!」
杉元は連れていた男と共に逃げてしまう
折角の高価なピアノが、穴だらけになってしまった
「やめろ殺すな!」
鶴見中尉が主人を殴り、気絶させた
のびている主人をほおって、二人で杉元を追いかける
「鶴見中尉!
杉元と話がしたい!」
「不死身の杉元を何故ご存知なのですか!」
「同じ第一師団だったから、話す仲だった!
短気だが、話は分かる奴だ!」
「なるほど!」
全力で走るが、杉元の足は日露戦争の時と変わらず早く、とてもではないが追い付けなかった
どんどん離されていく
「鶴見中尉!
海岸の方に来たと言うことは、舟で逃げる気かもしれない!
海岸にいる兵士に舟を借りさせよう!」
「それが良いですな!
彼方に兵が向かっているはずです、行きますぞ!」
鶴見中尉と兵士がいる海岸へ向かい、舟をアイヌから無理やり借りた
ほとんどひったくりである
杉元もどうやってか舟を用意していたのだろう
アイヌの女の子が乗る舟に乗っていた
しかし、杉元が連れていた男は舟には居なかった
「さーいーちーーー!!!」
大きな声で呼ぶが、返事がない
聞こえないと言うよりは、他ごとに夢中のようだった
不思議に思い目を凝らすと、海から先ほどの男が飛び出てきた
「!?」
「あれは…」
飛び出てきたと言うより、跳んで出たと言うべきか
どうやら黒い大きな鯨?が跳ね上げているようだった
「なんだあれは、鯨?」
「恐らくあれは鯱ですな」
「しゃち?」
「まぁ鯨の仲間です
しかし、激しく獰猛だ
それに群れで行動します
不用意に近付くと、舟ごとひっくり返されて喰われかねん」
「えっ怖い」
等と話している間に、あろうことか杉元は裸で海に飛び込んだ
「佐一!?
何してるんだ!?」
「恐らく鯱に襲われてた男が、脱獄囚なのでしょう」
「あの男が…?」
結局杉元は、恐らく脱獄囚ごと逃げられてしまった
話すことは叶わなかった