第2章 戸惑い、揺れる
顔が近づく。
「半間君と、どうなった?」
「どうって……別に……特には……」
どんどん近づいてくる陽介から、少しづつ後退る。
後ろに逃げ場がなくなり、そのまま陽介の腕が壁について、塞がれた。
「逃げないでよ……が好きなんだ。本気だよ」
話した事も、関わった事もないし、ましてや私なんて存在すら知らなかったのに、困ってしまう。
「陽介っ、待って……」
迫る陽介の胸に両手を当てて押し返すと、すんなり体が離れた。
「ごめん、急ぎ過ぎた」
苦笑した陽介を見ると、まるで自分が悪い事をした気分になってくる。
その後は、特に何事もなく遊んだ。
気まずさがあまりなかったのは、陽介がそれを感じさせないようにしてくれていたおかげだったのかもしれない。
「じゃ、また明日学校で。楽しかったよ」
「うん、私も」
陽介がふいに動いた。
小さくちゅっと頬に唇が触れた。陽介を見ると、少し悪戯っぽい顔で笑う。
「絶対好きにさせて、半間君から奪ってみせるよ」
そう言って去って行く背中を見ながら、私は頬に少し冷たくなった指で触れた。
「あれ? じゃん。何してんの?」
「一虎」
鈴の音をリンと鳴らしながら、派手な髪の一虎が歩いて来る。
「今日は一人? つか、もうそろそろ暗くなるから、こんなとこで一人でいたら、危ねぇよ?」
歌舞伎町の近くまで来ていた事に気づいたのは先程で、まだそんなに危ない時間じゃないから平気だと思っていたけど、もう日が落ち始めていた。
「最近女がどっか連れてかれて、複数人に輪姦される事件増えてるらしいから、お前もフラフラしてっと攫われんぞ」
髪をくしゃくしゃとされ、ボサボサになった髪を整えながら、一虎を見る。
「一虎は何してんの?」
「俺は稀咲と半間に呼ばれたから。あ、そうか」
一虎は何か思いついたようで、おもむろにスマホを出すと誰かに電話を掛けている。
相手が誰かはすぐに分かった。
「そうなん? へーへー、分かったよ。早くしてくれなー」
少し話してスマホを切った一虎は、私に笑顔で「何か飲むか?」と聞いて歩き出した。
自販機の前で小銭を出して、買ったジュースを私に差し出した。お礼を言って受け取る。