第1章 1
「・・・・どうした?さっきも・・・いつもみたいに普通に好きですって言ってたじゃん。誰かに何か言われたの?」
「いえ・・・ずっと考えてたことです・・・。わたし・・ふと気がついたら、もう10年ずっと下野さんのこと好きだって・・・言い続けてるなって。その期間ずっと・・・下野さんを困らせ続けてるなって・・・ごめんなさい・・・」
「いや・・別に困ってるわけではない・・・けど」
「もう、いい加減・・・潮時だなって・・・」
「・・・」
下野さんが言葉をなくして俯いた。
「だから・・・あの・・・最後にもう一回だけ・・・聞いてください」
「・・・・」
「下野さん・・・ずっとずっと好きでした。下野さんを好きになれて、幸せでした・・・。10年間迷惑かけてごめんなさい。これからも・・・後輩として・・・よろしくお願いします」
深々とお辞儀をする。
重力に負けて、涙がこぼれ落ちる。
わたしはその涙を乱暴に拭うと、勢いよく頭を上げた。
「下野さん、聞いてくれてありがとうございました!お疲れ様でした、おやすみなさい!」
わたしは無理やり笑顔を作ると、もう一度小さくお辞儀をし、下野さんの横を足早に通り過ぎようとした。
「っ」
走り出そうとしたわたしの腕を、下野さんの温かい手が掴んだ。
びっくりして振り返る。
「しもの・・・さん?」
「あ・・・いや・・・」
わたしを引き止めた自分の行動に彼自身も驚いたように目を泳がせた。
「え・・・っと・・・送る。もう遅いし・・暗いし・・・危ねぇから・・・」
「え?いえ、大丈夫です、あの・・・」
「いいから。黙って送らせろ。」
正直、今は一緒に居たくなくて、なんとか断ろうとしたわたしに下野さんが珍しく高圧的に言い放つ。
そのまま、わたしの手を取り歩き出した下野さんに、わたしは何も言う術もなく従った。