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「好きです」2

第1章 1



わたしは両手を硬く握り締めると、勢いよく立ち上がり、自分の荷物を引っ掴むと、全速力で彼の後を追いかけた。


「下野さん!待ってください!」

スタジオのドアを体当たりする勢いで開き、冷たい夜風を頬に受けながら、数十メートル先を歩く下野さんを呼び止めた。

「おぉ、びっくりした・・・どうした?」

わたしの大声に、下野さんがビクッと肩を震わせ振り返った。
全速力で駆け寄ったわたしを不審そうに見ながら、下野さんが鞄を抱えなおした。

「なに、なんだよ、どうした?」

唇をかみしめて必死な形相なわたしに、下野さんの不審げな顔が心配そうな顔に変化する。

あぁ、好きだ・・・。

また決心が揺らぎそうになりながら、わたしは拳を力一杯握りしめる。


「あのっ」
「おぉ、どうした」
「下野さん、あの・・・」
「うん?」
「あの・・・好きです。」

思わず溢れ出たそのいつもの言葉に、下野さんがまたかとでも言うようにちょっと呆れたような笑顔になった。

「違う、下野さん、聞いてください・・・好き、です。今まで・・ごめんなさい、ずっとずっと気持ちを押し付け続けて・・・。下野さんがわたしを恋愛対象として見てないって、わかってました。でも、好きで・・・何度も何度も諦めようとしたんです。でもできなくて・・・結果、もう何年も・・・下野さんを困らせて来ましたよね・・・ごめんなさい。」

声が震えないようにお腹に力を入れて必死で言葉を絞り出す。

「え、なに、どうした、急に??なんかあった?」

下野さんの手がわたしの頬に伸びてくる。
俯いてたわたしを覗き込むように、下野さんの顔が近づいてきた。

わたしは一歩下がって彼から距離を取る。

「?」
「ごめんなさい、もう、困らせないようにするので・・・。下野さんのこと・・・諦められるように努力するので・・・後輩として・・・そばにいてもいいですか?」

唇をかみしめて、涙を必死でこらえながら彼を見上げる。

下野さんはびっくりしたように目を見開いてわたしを見つめていた。
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