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「好きです」2

第1章 1




「下野さん、好きです」
「・・・知ってるって。何回も聞いた」

微笑みながらも困ったような顔でわたしを見る下野さんに、何度その言葉を告げたことか。
何度気持ちを伝えても、わたしの気持ちに応えてくれることはなく、脈はないんだとわかってはいる。
でも、彼を好きでいることをやめられない。
現場で顔を合わせる度、その子犬のような瞳を向けられる度、胸は高鳴り、大好きなその声で名前を呼ばれれば、諦めようとしていた気持ちなんかあっという間に忘れてしまうほど、何度も何度も彼に恋をした。

「好きです。」

わたしが溢れる想いを口にする度、優しい彼は困った顔をしながらも、わたしの気持ちを否定することはなかった。
それが諦められなくなる原因でもあったのだが、彼はいつもわたしとの距離に一線を保ち続けて、わたしがいくらアプローチを続けても、彼がその一線を越えることはなく、わたしに越えさせてくれることもなかった。

「こんなに・・・好きなのになぁ・・・」
「お疲れ。また次の収録でな。外もう暗いから、気をつけて帰れよ。」

拗ねるように呟いたわたしの頭にポンと優しく手を乗せて、下野さんがリュックを肩にかけて急ぎ足で歩み去って行く。
俯いて思わず唇をかんだ。

もう、さすがに潮時なのかもしれないな・・・。

ここのところずっと考えていた。
デビューしたての頃から10年もずっと抱えて来て、この先もずっと叶うことがないであろうこの想いに区切りをつける時が来たのかもしれない。

今まで、何度も何度も諦めようとした。
でもその度にまた新たな彼の魅力を見つけてしまい、さらに強く惹かれてしまう。
そんなことを繰り返し続けて、気づけばもう10年の月日が流れていた。

10年の片思い。

言葉だけ聞くと引くくらい怖いこの想い。
それでもわたしは真剣だったし、辛い気持ちと同じくらい、幸せに思う瞬間も多々あった。
彼を好きになってよかったと、何度思ったことだろう。
好きだと告げるたびに困ったように微笑む彼の笑顔ですら大好きで、その顔を見るためだけに気持ちを伝えたことさえあった。

下野さんが好きだ。
でももう潮時だ。

何日もそう考え続けて来て、今日言おうと心に決めていた。
でも下野さんの顔を見てしまうとその決心すら溶けそうだった。
でも好きだから。
もうこの呪縛から彼を解放しなければいけない時が来た。


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