あなただけに見せる顔【約束*番外編】(鬼滅/上弦夢)
第2章 real
一番後ろの席。できるだけ目立たないように声を潜めて開演の時を待つ。演目はこの劇場で彼らの劇団のオリジナルでは定番だというXmasストーリーらしい。
俺ほどに名の知れた女優ではないにしても、彼女にとって地元のようなものであるここには、それなりに沢山のファンがいるらしく、開演までの時間、彼女の事を話している声もよく聞こえた。
「今までの卒業生がさ、あまりにも天才すぎただけで、マキちゃんも頑張り屋さんで凄い子だよな!」
「そうそう!なんかさ、マキちゃんいなくなってからはちょっと寂しいっつうか、ぽっかり穴が開いたような感じがあったよな。」
「あったあった!」
「それにさ、今年のマキちゃん、凄くね?どんどん演技上達してきちゃってさ!今年まではあんまりパッとした活躍なかったけど、来年、再来年あたり、絶対来ると思うんだよねぇ。」
「マジで??」
観客の男たちの話がそのまま聞こえてくる。仕事に追われて、アドバイスしかできず、その結果報告を口頭でしか聞いたことがなかったことを思い出す。
へぇ。そうなのか。と内心「それ、俺のお陰だぜ?」って言ってやりたかったけど、それは実際目の前での演技を見なければ始まらない。なんせ、俺がここで出しゃばるようなことがあったら、ここの人にも劇団の人にも迷惑をかけちゃうからいい子でいなきゃね。
超満員で会場は暗転し、ステージのスポットライトがともったのが解った。
緞帳が上がって、真っ黒なステージに白いスポットライトが当たる。中央でピアノを弾く子、悲しい曲。それに合わせてプロローグ的なものが語られる。この劇の内容は、事故で亡くなった恋人のレクイエムをピアノで弾く彼女が、彼との約束を思い出してクリスマスに奇跡を起こすと紹介されていた。マキちゃんは主人公の継母役で、気持ちのすれ違いで心を痛めている関係性らしい。
プロの役者を目指している眼差しは、どの子も本気で初々しい。役者が出発点だったわけじゃなく、そんなに苦労した覚えもないからか、どこかかわいらしく思えてしまう。