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あなただけに見せる顔【約束*番外編】(鬼滅/上弦夢)

第2章 real



「童磨さん....?」
「ん?」
「いえ、なんかいつもと違う表情でしたので。」
「それはそうだと思うよ。」

マキちゃんはよく分からない顔をして小首を傾げる。その表情につられて意図しないで笑みがこぼれる。これもリアルな俺の表情ってとこなのかな?

「に、してもさ、このお花は、俺のために用意してくれたの?」

だとしたら、俺が来るかもって、毎度用意してたんだろう。この間の公演だって行けたら必ず寄るよって言ったし。そうだとしたら、初めて用意したように話す君は、今日俺が来なかったら、この花は捨ててまたケロって今みたいに笑うのかな。

聞かなきゃそれ以上の気持ちになんか気づかなくて済むのに、俺も馬鹿だよね。


「もちろんです。直接自分から渡したかったので。」


ほらね。......聞かなきゃ良かった。


「来年も頑張るので、また相談に乗ってくださいね。」


それだけ言うと、劇場の裏口通路から声をかけた女の子がマキちゃんを呼ぶ声。

「今行きます!」


女の子にそう答えると、マキちゃんはまた向き直って


「今日は来て下さってありがとうございました!すごく嬉しかった!」


満開に咲ききった花みたいににっこり笑って、来た道を向き走っていく。


マキちゃんのその表情と声が何度もリフレインする。

心臓をキュッと締め付けられて心拍数が上がる。

動きすら封じ込めてしまうさっきの衝撃はきっと、マキちゃんに対する気持ちの昇華の証だろう。

そんなリアルに感じたこの想いは、花束と一緒に胸に大事に抱いたままでいようと思う。

それまで、どうやってあの子の色んな顔を見ようかとか、イタズラめいたことを考えるのはどんな時でも楽しいものだ。

どこか暖かい感情が、表情筋を緩めて虚実を溶かしていく。それを心地よいと感じる俺自身も悪くないものだ。




END.
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