あなただけに見せる顔【約束*番外編】(鬼滅/上弦夢)
第1章 sign
「まだ、イブだ。それに、明日からは暫く休み。私は綾乃がいれば何でもいい。日々忙しなくくつろげる日もないから、たまにはイベントも気にせず二人で過ごすのも悪くないと思っている。」
「ホント、うかつでした...。」
「私は今も愉しませてもらっている。それでよい。」
少し表情が明るくなったのを見て、胸をなでおろす。普段ずっと共に仕事やプライベートを過ごしていると、仕事が明日に控えている時は、それ故か気持ちはそちらばかり向いて二人の時間を愉しめていないのは互いにとって共通認識であろう。
よほど切羽詰まっていたり追い込まれたりして、心に余裕のない時でなければ夜に肌を重ねる事もない。
綾乃とはマネージャーとして出会い、1年と経たず交際し今年に生涯の契りを結んだ。生活として変わったことは特にないものの、紙一枚の効力からか、以前より心はだいぶ安定していても、夜の方は依然と間隔がよく開く。
あぁ、そういえば、もう明日からしばらくの間、自由なのだ。
思考が疲れからか安心からか脱線していることに気づいて、それに気づかれぬよう顔を反らす。シェイカーを振る音が静寂を遮って、物言わぬ綾乃に再度目を向けると、彼女は思いに更けているような穏やかな表情だ。
「どうした?」
「いいえ、ここに始めてきた時の事と、ここに通っていた時の事を考えていました。嬉しいのです。恐らく、同じことを考えてこちらに誘ってくださったのでしょ?」
「あぁ。」
「いろいろありすぎて、1年も経っていないのに随分前のような気がします。」
前回来た記憶は日本でのMVを撮りに帰国した時の早春の頃ものだ。
撮影の後、慌ただしく籍を入れて、その夜、ここで二人でひっそりと祝い、数日の余暇を共にした。
「巌勝様は気づかれていらっしゃらないでしょうけど、あの時と比べていくらか表情も柔らかくなって、よく笑ってくださるようになりました。」
「私が....?」
「はい。」
目の前に、置かれたジンジャーワインのワインとクリスマス風にデコレーションされたカクテル。言わずもがな、デコレーションされたカクテルは綾乃のものだ。