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あなただけに見せる顔【約束*番外編】(鬼滅/上弦夢)

第2章 real



 お客さんが、劇場を出る流れに合わせて外に出る。このまま、誰にも俺の事に気づかず帰りたい気持ちだった。予想外な自分の体の反応、感じたことのない感情を持て余してどうしたらいいか分からなかったから。
 余韻に浸っている観客たちは、そっちに気を取られているのと夜のライトの逆光に隠れた俺に気づくことがない。

 花束とか、渡していきたいと思ったけど、まだこっちにいるから後日予定聞いて渡せばいい。月は見えない灰色の空の上だけど、夜の風や纏う空気が夜の遅さを感じさせてくる。

 俺は来た道を帰ろうと歩き出した。

「童磨さん!!」

 舞台の上での声とは違うけど、明らかにマキちゃんの声。俺はなぜか、すぐに振り返ることが出来なかった。ただ、足を止めているだけの自分に気付いたけど、顔が見れないのを誤魔化すために、声だけを理想的に演じる。

「マキちゃん凄いね!俺が思ってた以上に頑張ってきたんだね。」

 そう言って振り向かないまま、手だけを振って立ち去ろうとした。何だか、今振り返ると後戻りが出来ないように思ったから。でも、彼女は諦めてくれない。

「有難うございます!!この一年、童磨さんのお陰でわたし...。」
「マキちゃんは不器用さんだって思ってたけど、俺が思ってたよりずっと努力家だね。」
「そんな...!童磨さんがこんなわたしにも、ちゃんとお話聞いてくださったし、自分の中にある答えに導いてくださったからです!
不躾かもしれませんが、ちゃんとお礼させてください.....。」
「お礼なんていいよ?俺がしたくてしたことなんだし。」

 少しだけ、振り向く素振りをして、また歩き出す。
俺はこんなにも彼女にとめられたことに内心焦っていた。
こんなにもリアルにダイレクトに心を揺さぶられて熱が上がるの、俺じゃない。

「わたし、あなたと初めて同じ仕事をしてた頃、ずっと演技の事で、表現の事で悩んでたんです。ホントは童磨さんがわたしのこと、しつこくて面倒だと思ってたとしても、最後まで聞いてくれて答えまで引き出してくれたり、お時間取ってくださるのが凄く嬉しかったんです。わたし自身ここまで来れる事、あの時想像すらできなかったから...。」

 あぁ、なんで、この子は今の俺を放っておいてくれないんだろう。そう考えていると、靴がアスファルトを蹴り鳴らす音が、別のカサカサという音と近づいてくる。
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