あなただけに見せる顔【約束*番外編】(鬼滅/上弦夢)
第2章 real
マキちゃんは、俺の前に回ってきて、がさりと何かを押し付けてきた。クリスマスカラーに彩られた花たちで、花の間にはっきりと俺の名前が書いてある。馬鹿だなぁ。花は男がやって女の子が喜ぶのが普通だろう。
でも、「どうして?」
最後の言葉だけが声に出て、驚いたままの、虚空を隠すように演じる事を忘れたままの声が出た。取り繕うとしても、まだ、俺は彼女を見れない。
「今日、きっと来てくれると思ってたから...。自己満足かもしれないけど、形に残るようなお礼がしたかったんです。
ごめんなさい、やっぱり、お花なんて童磨さんいっぱい貰うのに迷惑でしたよね...。」
勢いよく突っ走ってきたマキちゃんは、ここに来て冷静になったのか、自分を卑下するように下がった言葉をこぼした。
「全く、ホントにその通りだよ。」
自分を誤魔化すのを半分。でも、予想外の事ばかりで俺の心をかき乱してくるマキちゃんに降参した気持ちで言葉を吐くと、マキちゃんは言葉のまま捉えて、ひゅっと息を呑んだ。
「やっぱ...。「演技は凄く上手くなってるしさ、心も、声も会場の端から端まで取り込んでしまって驚かされるし、想定以上過ぎてビックリしたんだぜ??」
「え...?」
「お客さんも、みんな、マキちゃんは頑張り屋さんで凄いって噂してるし、前なんかと比べ物にならないくらい、声の艶も表情もいいし、今もイキイキしてる。ホントにびっくりしちゃったよ。」
もう、きっと誤魔化せないから本当のこと言ってしまおう。皆が言ってたな。ホンネを知られたら怖いこともあるって。
取り繕ってた部分が生きて、演技に結びついたそれは架空の演技でしかない。極限まで誤魔化せても、本当に役に入り込んで魂から演じることができる君だから、俺の心に強く響いた。
でも、今のがみんなが言うホンネの部分であり、心から自然に湧き出た感情だから、魂の乗った声になり表情が生まれていく。
今の君だけにしかこんな表情は作れないんだ。
その理由だけは教えてあげない。
マキちゃんは、泣き出しそうなのを堪える顔から、驚きの表情になる。そんなに見ないで欲しい。
キャメルブラウンのふわふわした髪が冷たい風に揺らいで、大きな茶色の目は純粋すぎて、きっといつものように俺はただの"先輩"でしか映ってない。