第6章 幸せと歯車
ある日、ローはクルー達をキッチンに集めた。真剣な顔をしているローに何事かとクルー達もざわめき立つ。
「お前等に言っておく事がある。」
「どうしたんですか?藪から棒に。」
「あの賭けの事は覚えているな?」
「花子を誰が落とすかってやつですか?」
それがどうしたのだと首を傾げるクルーにローは一呼吸置き重い口を開く。
「当然だが花子はその事は知らねぇ。」
「まぁ当たり前でしょうね…。」
「俺等が下心で優しくしてたのも気付いていなかったですもんね…。」
今思えば馬鹿な事をしたと皆反省している。花子はもう掛け替えのない仲間になっているのだから。
「分かっているだろうが、あいつにこの事をバレる訳にはいかねぇ。」
「「「確かに…。」」」
もしそんな事があったと分かれば彼女はショックを受けるだろう。もしかしたら船を降りてしまうかもしれない。
「いいか?死んでもバラすんじゃねぇぞ。」
「…もしかして俺達を集めた理由って口止めする為ですか?」
そう言えばローは他に何があると当たり前の様な顔をする。
「後、ミラにもそんな賭けすんじゃねぇぞ。」
「いやいや…流石に15歳には手を出しませんて!シャチなら兎も角。」
「俺も出さねぇよ!」
「話はそれだけだ。」
そう言うとローはキッチンを出ていった。彼の背中を見つめクルー達は珍しいものを見るような目をしている。
「まさかキャプテンがあそこまで必死とはなぁ。」
「それだけ本気なんじゃねぇか?」
「てか、俺賭けの事すっかり忘れてたぜ。」
「俺も!」
今までのローだったらわざわざこんな裏で手を回す様な面倒な事はしなかった。バレたとしてもそれがどうしたと泣き縋る女を冷たく突き放していたぐらいだ。
「人って変わるもんだなぁ~!」
「確かに!花子といる時のキャプテン、凄ぇ幸せそうだもんなぁ!」
花子といる時のローは見てるこっちが恥ずかしくなる程、甘く、優しい目をしている。船長の変化に驚くも幸せそうな彼の姿に皆嬉しく思っていた。しかし、彼等は気付いていなかった。
(…遊び…か。)
この会話を1番聞いてはいけない彼女に聞かれていた事を。