第1章 普通の日常
花子 side
「船長!こっちはもう壊滅状態ですっ!?」
「うるせぇっ!今、それどころじゃねぇんだよ!?」
(あ…この人が船長なんだ。)
私を外まで引き摺り出した男の人に部下らしき人が駆け寄る。動揺を隠しきれず八つ当たりをする船長に、こんな上司やだなぁっと思っていると大きな刀を持った男の人が彼に声を掛けた。
「おい、拐った女は何処にいる?」
「あぁ?!そんなの目の前にいるだろう!」
「そいつじゃねぇ。お前等が拐った俺のクルーは何処だと聞いてんだ。」
私を盾にする様に前に出す船長に男の人は女は何処だと問いただす。"クルー"と言う言葉に私はイッカクが"キャプテン"と言っていた人物を思い出す。
(じゃあ、この人が。)
イッカクが在籍している海賊船の船長なんだ。…なんと言うか。
(めっちゃイケメン。)
すらりと高い身長。細身に見えるが肌蹴た胸元からはタトゥーと一緒にしっかりとした筋肉が顔を出している。顔は目元の隈があるけどそれがまた憂いがあって色気を感じる。
(こんな人とワンナイト出来たら最高だろうなぁ~。)
そんな場違いな事を考えていると、先程から耳元でぎゃあぎゃあ不快な声で騒いでる船長が私の首筋に剣を当てる。
「動くな!動けばこの女の命は無いぞっ!?」
(わぁ~…ドラマみたい~。)
お決まりの台詞を吐く船長に恐怖よりも訳の分からない感動が込み上げた。本当にこんな台詞、言う人いるんだ。となると、目の前のイケメンが言う事は1つ。
「知るか、勝手にしろ。」
(…ですよねぇ。)
「てめぇっ!正気かっ?!」
「俺は海賊だぞ。勝手に捕まった馬鹿な女の面倒まで見る気はねぇ。」
イケメンの酷い言い様にやはりイケメンは性格が悪いのかと、私を彼等に売ったマスターを思い出し、思っていた台詞が返って来ず残念に思う。
「てめぇっ!花子を離しやがれっ!」
「ぐほぁっ?!」
「…わぉっ。」
しかし、天は私を見放しはしなかった。いつの間には自由になっているイッカクの強烈な蹴りが船長の頭に見事クリーンヒット。
「花子!大丈夫?」
「イッカク…王子様は貴女だったのね。」
ひしりと強く私を抱き締めるイッカクに、もし彼女が男だったら完全に惚れていたと思う私は、本当にチョロいと思う。