第5章 そばにいれたら
花子 side
何だか眠れなくて私は1人夜の甲板に出た。昼間と違い静かなそこは何処と無く寂しさを感じる。
(綺麗…。)
空を見上げれば光輝く月が海を照らしている。余りの美しさにぼぉっとしていると、不意にパシャリと水音が聞こえた。
「イルカ?」
海面に目を向けると真っ白なイルカが2頭。まるで逢瀬を楽しむかの様に並走して泳いでいる。そんなイルカ達の姿が私には羨ましかった。
「皆…元気かな。」
脳裏に浮かぶのは元々いた世界の家族、友達の姿。あの頃は1人何て平気だと思っていた。でも、いざ1人取り残されるとどうしようも無く寂しさが募る。
「…帰りたいっ。」
急なホームシックになってポツリと呟くと、突然後ろから誰かに抱き締められた。ビックリして身体を固くしたけど、その温もりに力が抜ける。すぐに分かる。逞しい腕も…香りも…温もりも…全部…。
「どうしたの?…ロー君。」
大好きな…彼のものだから…。
ーーーーーー
ロー side
ー…帰りたいっ。ー
絞り出す様な花子の声に思わずその小さな身体を腕の中に閉じ込めた。驚き肩を震わせるが俺だと分かると安心した様に花子は身体の力を抜く。
「…行くな。」
俺の側を離れていくな、俺の前からいなくなるな。花子を抱き締める腕の力を強め首筋に顔を埋めると、擽ったそうに身動ぐ。
「…悪かった。」
「え…?」
「お前の事が…嫌いな訳じゃねぇ。」
「!」
「お前が…他の奴等にヘラヘラしてんのが苛付くだけだ。」
くそっ…何で俺がこんな言い訳じみた事言わなくちゃなんねぇんだ!どうして良いか分からず業を煮やしていると、花子が勢い良く振り返った。
「本当…?」
「…あぁ。」
「本当に…私の事、嫌いじゃない?」
何度も聞き返す花子に頷けば大きな瞳からポロリと涙を溢す。
「よかったぁ~…!」
「っ!」
嬉しそうに柔らかく笑う花子に俺の心臓がドクリと脈打つ。気付けば花子の顔を引き寄せキスをしていた。
(ん…ろ…くっ…!)
(…なぁ、俺の部屋…来るか?)
(?!)
(…嫌か?)
(…。)コク