第5章 そばにいれたら
(くそっ…集中出来ねぇ。)
自室に1人籠り医学書に目を通しているローは止む事の無い苛立ちに顔を顰めた。脳裏に浮かぶのは涙を流す花子の顔。
「チッ…。」
ローはこの苛立ちの訳が分からなかった。何故こんなにも心を乱されるのか。何故花子が泣くと胸が苦しくなるのか。
(それもこれも…全部あいつのせいだ。)
全く集中出来ず医学書を読むのを諦めたローは、本を閉じ机に置くと椅子に凭れ掛かり天を仰ぐ。
「キャプテン?俺です。入っても良いですか?」
「…入れ。」
扉を叩く音と共に聞こえるのはペンギンの声。何か問題でもあったのかと思い入室の許可をすると、彼はローの姿を見つめる苦笑いを浮かべる。
「…こっちもですか。」
「あぁ?」
困ったもんだと呆れた顔をし近付いてくるペンギンを、ローは目線だけ動かし彼を見つめる。
「単刀直入に言います。…花子と仲直りしてください。」
「…用がねぇなら出てけ。」
「正直、皆迷惑してるんですよ。キャプテンはずっと不機嫌だし、花子は無理に笑うし。見ていて痛々しいです。」
はぁ…と大きな溜め息を吐いたペンギンにローは眉をピクリと動かし彼を睨み付ける。
「花子、落ち込んでましたよ。」
「…お前には関係ねぇ。」
「っ!あぁ、そうですか!」
突き放す様なローの言葉に頭をガシガシと乱暴に掻き彼を見下ろす。
「あんたがそう言う態度なら…俺が貰っちゃいますよ。」
「!?」
「何ですか?俺にだってその権利はありますよ。」
勢い良く立ち上がりローがペンギンの胸倉を掴む。鋭い眼光に怯む事無くペンギンは彼を睨み返す。
「ローさん。あんた、何をそんなに苛付いてんだ?欲しいなら欲しい、それで良いだろ!」
久々に呼ばれた名前。船長とクルーとしてでは無くローの友人としてペンギンは彼と向き合っていた。
「あんた海賊だろ!欲しいものはどんな手を使っても手に入れる。それが…俺達のキャプテン、トラファルガー・ローだろ!?」
「?!」
声を荒げるペンギンにローは目を見開く。欲しいものはどんな手を使っても手に入れる。ずっとそうしてきた。
「あぁ…そうだったな。」
「カッコ悪い姿見せないでくださいよ。」
ペンギンから手を離したローは何か吹っ切れた様に晴れやかな顔をしていた。