第35章 決戦の時
花子が作戦をカイドウに漏らしたと言うカン十郎に錦えもんは顔を歪める。彼女がそんな事をする筈がない。だって…花子は…。
「確かに彼女は史郎殿の孫娘であるが我等には何の思い入れもござらん!自分の命惜しさにカイドウに全てバラしたやもしれぬ。」
ーおでん様とお祖父ちゃんの夢…必ず叶えようっ!ー
確かに花子と自分達は日は浅いかもしれない。しかし、あの時涙を流した彼女の瞳に偽りは無かった。
「くっ…!」
「お前の気持ちも分かるっ!錦!はっきりさせようぞっ!」
一層激しさを増す嵐、稲光が辺りを照らした時、誰かの口元が三日月型にきゅっと上がった。
「…俺がそうだって事を!」
「カン十郎…?」
ヒヤリとする様な冷たい声。後ろを振り返った錦えもんの目には、まるで彼等を嘲笑うかの様に笑みを浮かべるカン十郎の姿があった。
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幼い頃から迫害を受けていたカン十郎は目の前で両親を殺された。それから彼は自分以外の何者かの役を演じる事でしか生きられなくなった。絶望に打ち拉がれた彼は自分自身では感じられず、何も考えられなくなってしまったからだ。
「夕立ちカン十郎…それはオロチ様より与えられた役の1つでしかない。」
彼の本当の名は…黒炭カン十郎。最初の作戦が漏れたのも捕まったベポ達が口を割った訳でも、ましてや花子が喋った訳でもない。全て彼が伝えたものだった。
「それを見事にフォローし己の命と引き換えに集合場所を変えた康イエは流石だった。」
しかしカン十郎に伝わった時点で彼の死は無駄になってしまった。ビブルカード無しでは辿り着けない"ゾウ"にジャックが現れたのもカン十郎が仕組んだ事。
「そして此度の作戦も…全てオロチ様に筒抜け。」
作戦を知ったオロチはトカゲ港に繋がる全ての道を爆発し塞いだ。ルフィの船も。誰も現れなかったのは当然の事。
「史郎の孫娘が捕まったのは予想外だったがな。」
「?!花子殿っ!花子殿は無事なのかっ!?」
カン十郎がオロチの手先だったと言う事はカイドウに彼女が自分達の仲間である事も伝わっている筈。
「あの娘は本当に史郎にそっくりだ…。卑しく…言葉巧みに人を惑わせる。」
花子の安否を確認する錦えもんにカン十郎は苦々しげに顔を歪めた。