第35章 決戦の時
この日が来るのをどれ程待ち望んでいた事だろう。やっと亡きおでんの思いに報いる時がきた。
「1隻の船も無しっ!?」
しかし、トカゲ港に辿り着いた錦えもん達の目に飛び込んできたのは4千の同志を乗せた船ではなく、荒れ狂う海と高波だけ。
「ここ、攻撃を受けた跡があるぞ!」
火祭りの日の夕刻、トカゲ港に集まりカイドウに討ち入る予定だった。だが、そこには同志達の姿どころかルフィ達の姿もない。彼等は何処に消えたのか…錦えもん達は動揺を隠しきれずにいる。
「ルフィ殿っ!応答願うっ!ロー殿っ、ヒョウ五郎殿っ…!」
錦えもんの必死の呼び掛けにスマートタニシが答える事はない。涙ながらに何度も助けを求める錦えもんの肩をアシュラ童子が掴み止める。自分達は天に見放されたのだ、誰の助けもないと。
「止めろ!お前達っ!そんな船で行くなど自害に等しいっ!」
唯一残っていた小舟で海に出ようとする錦えもん達をモモの助が止める。こんな嵐の中、その様な小舟で海に出れば鬼ヶ島に辿り着く前に命を落とす。
「…今日、この時を逃せばチャンスは1年後でござる。」
櫂を握り締め荒ぶる海を見据える錦えもんの声が響く。兎丼の制圧がカイドウの耳に入れば彼は全勢力を持って謀反者を狩りにくるだろう。チャンスは今しか無いのだ。
「行くなっ!行ってはならぬーっ!!錦えもん!アシュラ!カン十郎!雷ぞう!菊!河松!イヌアラシー!」
涙を流し錦えもん達へと飛び出そうとするモモの助をしのぶが抱き締める。モモの助の叫びを背に彼等は海に出た。
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「おかしいですっ!こんなのっ!?」
遠くに見える鬼ヶ島を目指す中、菊之丞が涙を流し叫ぶ。1度ならず2度までも作戦が漏れている。カイドウを討ち取りおでんの悲願を遂げたい気持ちは皆同じの筈だが。
「…考えたく無かったがっ!」
先頭にいる錦えもんが刀を抜き後ろを振り返り叫ぶ。この中に敵の内通者がいる。仲間を疑うなど彼らしくない言葉に菊之丞が錦えもんの胸倉を掴み声を荒げる。
「…花子殿…ではござらんか?」
「何…?」
今は仲間割れをしている時ではない。疑心暗鬼になっている錦えもんを見つめカン十郎がポツリと呟く。