第34章 え?暇なの?
「花子殿!今日は、豆大福を持って来たでござるよ!」
「はぁ…いつも、ありがとうございます。」
ニコニコと手土産をぶら下げ部屋に入ってきた狂死郎に花子は苦笑いを浮かべながらそれを受けった。あの日、出会ってから彼はこうして彼女の元を訪れる。
「狂死郎さん、お仕事は大丈夫何ですか?」
「下の者がしっかりとしている故、拙者はやる事がござらん。」
ようは暇なのねと、狂死郎の部下を不憫に思いながら花子は茶を淹れ彼に差し出した。
「…史郎殿もこうしてよく茶を淹れてくれた。」
「…お祖父ちゃんと親しかったんですか?」
懐かしぬ様に微笑む狂死郎に尋ねると、彼はさあなとだけ答え茶を啜る。カン十郎の態度から史郎を慕う者もいたが逆に恨んでいる者もいる。しかし、オロチの部下である彼からはそんな感じは伺えず、花子は違和感を感じていた。
「…花子殿から見て史郎殿はどの様な人でござった?」
「物腰が柔らかくて物静かで…いつもおでんさん達の事を話してました。」
おでん達の話をする史郎に家族はまた始まったと呆れた表情をしていたが、花子は楽しそうに話す彼が好きだった。
「お茶の淹れ方もお祖父ちゃんが教えてくれたんですよ。」
「史郎殿が?」
「女性なんだからお茶ぐらい美味しく淹れられないといけないって。」
古臭い考えだと思っていたが上手く淹れられた時の史郎の喜ぶ顔が見たくて必死に練習した。狂死郎はじっと湯呑を見つめた後、味わう様に口に含んだ。
「確かに…史郎殿が淹れてくれた茶の味だ。」
「良かった。」
「史郎殿は…良き家族に出会えたのだな…。」
嬉しそうに柔らかく微笑む彼の表情は何処と無く切なさを帯びており、彼は史郎が好きだったのでは?と言う考えが頭を過る。
「狂死郎さっ…。」
もしかしたらと、口を開こうとした花子を狂死郎が鋭い眼光で見据える。まるで、それ以上は何も言うなと語りかける様に…。
「本当に…美味い茶だ…。」
目は口程にものを言うと言うが、茶を啜る彼の表情は先程とは打って変わってとても穏やかなものだった。
(花子〜…って、狂死郎来てたのか?)
(ササキ殿、フーズ・フー殿!)
(よぉ、チンチクリン。来てやったぞ。)
(…ねぇ、皆暇なの?)