第32章 デジャブ?
ーゆっくりしてろ。ー
「って言われてもなぁ~…。」
花子は渡された着物に着替えページワンが出ていった襖をぼんやり見つめていた。今、自分がいる場所が何処か分からない以上、迂闊に屋敷を飛び出すのは上策とは言い難い。
「少し外を散歩するぐらいならいいかな?」
しかし、じっとしていられないのが彼女の性分。花子は襖を開き目の前に広がる庭園に目を奪われた。
「わぁ~…!」
室内であろう庭は薄暗いが手入れが行き届いている事が分かる。花子は縁側に腰を下ろし何をする訳でもなくぼぉっと眺めている。
「気に入ったか?」
「ペー君!」
手に盆を持ったページワンが花子に声をかけ、それを彼女の隣に置く。盆には茶が入った2つの湯飲みと団子が乗っており、キラキラと目を輝かせ花子はそれを見つめた。
「…食うか?」
「いいの!?」
そんな顔をされたら駄目とは言いづらい。うんと頷くページワンを確認し花子は嬉しそうに団子を手に取った。
「美味し~!これ前、買ってきてくれたお店の?」
「あぁ。」
美味しそうに団子を頬張る花子にふと表情を和らげ彼女の背後に回ると、ページワンはそっと花子の身体を抱え込んだ。
(落ち着く~…。)
頭に顎を乗せ後ろから抱き締めるページワンの重みを感じながら、花子はほわほわと顔を綻ばせズズッと茶を啜る。
「…って!寛いでる場合じゃないっ!?」
「うおっ?!どうした、急に…。」
見慣れた懐かしい景色に思わず和んでしまったがここは一応敵の幹部のアジト。何を呑気に茶をシバいているのだと、声を上げる花子にページワンは驚いた様に顔を覗き込む。
「ペー君、お家に招待してくれたのは嬉しいけど私、帰らないと…。」
仕事もあるが、何も言わずに姿を消してしまい今頃、彼等は大慌てて自分を探しているだろう。
「…帰さねぇよ。」
腰に回ったページワンの腕に力がこもる。少し身体を捻る花子の首筋に顔を埋め彼は続けた。
「お前は…ここで俺とずっと一緒にいるんだ。」
執着にも似た感情を宿す彼の瞳がギラリと妖しく光っている事を、花子は知りもしなかった。