第4章 この苛立ちは君のせい
サボ side
思ったより早く任務を終え後はカラスに迎えに来てもらうだけだ。時間を持て余した俺は宛もなく歩いていると、海岸の方から声が聞こえた。
「いつもありがとうねぇ~。」
(女?)
声のする方に足を向けると岩場に腰掛けた女が下を向き何かに話掛けていた。何気なしにその様子を眺めていると俺の中で衝撃が走った。
「ふふっ、慰めてくれるの?」
「…!」
優しく微笑むその顔を綺麗だと思った。そしてもっと彼女の事を知りたいと。俺は気配を消しゆっくりと彼女に近付いた。
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花子 side
「ブラックベルーガはその知能の高さから警戒心が強く滅多に人前には姿を現さねぇんだ。」
「そうなの?」
私、週に1回は見てるけど。もっと撫でろと催促するイルカをサボ君は目を輝かせ眺める。
「…撫でてみる?」
「良いのか?」
「大分、大丈夫だと思うけど。」
あんな目をされたらね。多分この子は比較的大人しい方なんだろうと思いそう言うと、ワクワクとした様子でサボ君はそっと手を伸ばす。
「っ?!いってぇっ?!」
「えぇっ?!」
後少しで鼻先に手が届きそうになった時、イルカが彼の手を噛んだ。えぇっ?!さっきまであんなに大人しかったじゃない?!手を離す様に言うとイルカは少し怒った表情で、ペッと唾を吐き捨てる様な仕草を見せた。
(ガラ悪っ!?)
「ってぇ~…!」
「ごめんね、サボ君。大丈夫?」
「あぁ、大丈夫。多分、こいつは花子以外には触って欲しくねぇんだな。」
ヒラヒラと振る彼の手は赤く歯形が残っていて少し血が滲んでる。私は持っていたハンカチをサボ君の手に巻いた。
「こんぐらい平気さ。」
「駄目。帰ったらちゃんと消毒してね?」
巻き終えるとサボ君は何故かハンカチを見つめ嬉しそうな顔をする。
(手当てされた事無いのかな?)
「そう言や、それ何だ?」
私の膝に置いてある宝石をサボ君が指差したから、それを彼に差し出す。
「グレースピネルか。」
「あっ!そう言うの詳しい?」
「いや、豆知識程度だが…何だったかなぁ~…。」
私も宝石とか天然石は好きだけど意味までは分からない。難しい顔で頭を捻るサボ君を私は期待を込めた目で見つめた。