第30章 Let's 就活!
"スイートシティ"の外れをサンジは訪れた。空は国雲に包まれ、雨が滝の様に降り注ぐ。目の前に倒れているキングバームは真っ2つに切り裂かれ、サンジは既に事切れているその巨木を見つめ先程のプリンの言葉を思い出す。
ー私を抱き寄せ、絞り出すようにこう言ったの。『キミはすくいだー。ケッコンしよー!』ってね!ばっかみたい!ー
嘲笑うかの様に放たれた彼女の言葉。自分との結婚は地獄にしないと涙を流し言った美しいプリンの姿は何処にも無く、サンジには初めて女性が醜いものに見えた。
(俺は…明日、殺されるのか。)
この結婚はジェルマの科学を手に入れる為にビッグ・マムが企てたもの。明日、誓いのキスを交わす時、サンジと彼の家族はビッグ・マムに殺される。
(花子ちゃん…。)
目に浮かぶのは彼女の笑顔。もし、殺されるのなら最後に彼女に会いたい…。そう思っていると辺りに地鳴りの様な音が鳴り響く。驚き音のする方に駆け出すと、そこにはミイラの様に干乾びたルフィがキングバームに凭れ掛かっていた。
「はんじ…めひ…。」
致命傷となる傷は見られないが、兎に角、飢餓が酷かった。弱々しく自分を見つめるルフィは、一刻も早く何か栄養を口にしなければ餓死してしまうだろう。
「…俺は待ってろなんて言ってねぇ。…食えるもんなら食え。」
「めひっ…!」
持っていたバスケットをルフィに放り投げる。雨に濡れ何度も落としたであろう中身はグチャグチャに潰れ、普段サンジが作った料理とは似ても似つかない程、酷いものだった。
「うめぇっ…!」
「っ!」
「最高だこりゃ!うめぇっ!」
美味い美味いと弁当を平らげていくルフィの姿にサンジは顔を歪める。あの時もそうだった。病気に伏せる母の為に料理を作った時も、今回の様に酷い有り様だった。しかし、母はその弁当を美味しいと…また作ってくれと…笑顔で自分を抱き締めてくれた。
「食った、食った!いやぁ~、後少しで干乾びる所だった!しししっ!」
弁当を平らげたルフィは元の姿に戻っていた。食ったのなら帰れと背を向けるサンジにルフィは首を傾げる。
「…何でだ?」
「何でって…!」
「皆で帰るんだ!だから、お前ここにいるんだろ?」
見放されてもおかしくない事をしたのに、それでも一緒に帰ろうと言うルフィにサンジは狼狽え動揺を隠せずにいた。