第29章 俺の事なんて忘れて…
ビッグ・マムの城に着いたサンジは婚約者であるプリンの部屋を訪れた。彼女がルフィ達をこの島に誘導した事を知ったサンジは、何故彼等が監視だらけの海を越えられたのか漸く理解が出来た。
「…どのみち俺は海岸にはいかなかった。」
「そんなっ!招待状の事なら娘の私が罪を被れば何とかなるわ!式に出たら終わりよっ!」
政略結婚に慣れたビッグ・マムは結婚相手にブレスレットを嵌めさせる。それを着けたまま島を出れば…。
「…爆発する。」
「知ってるの…?」
スッと腕の裾を捲ったサンジの手首には金のブレスレットが嵌められていた。それを見たプリンは目を見開き口を両手で覆う。
「鍵は君のママが持っている。外すにはビッグ・マム海賊団とやり合うしかねぇ…。」
「まさか、もうママの手が…?!」
「…それに、どのみち俺の周りには味方なんていねぇ。」
米神に手を当てサンジはビリビリと顔から何かを剥がす。それは3人の兄弟達により腫れ上がった顔を隠す為にレイジュが貼った特殊なパック。
「血は繋がってても…この様だ。」
「その傷…実の家族に…?」
パックを剥がしたサンジの顔はとても血を分けた家族から受けた傷とは思えない程腫れ上がっていた。
「あいつ等にとって、俺の存在は落ちこぼれで許せないらしい。王族に生まれて良かったと思った事は1度もねぇ…。」
出来損ないと蔑まれ父親にも見捨てられ、唯一心の支えだった母親も失ったサンジにとって…幼い頃の生活は地獄でしかなかった。
「だから海に出たんだ。あるかも分からねぇ場所を目指し。」
しかし、この結婚に抵抗すれば仲間は全滅。そして…イーストブルーにいるサンジにとって親同然のゼフの命も握られている。
(それに…彼女の大切な人も…。)
もし、サンジが抵抗すればジャッジは部下をバラティエに…そしてジルの所に向かわせるだろう。そうなれば…花子が悲しむ…。
「だから抵抗を止めた。」
「っ…でも、そうしたらサンジさんの気持ちはどうなるの?私と結婚してしまえば、もうその子とは…!」
「どのみち彼女とは会えねぇ…最後に別れの挨拶が言えなかったのは心残りだかな。」
雷鳴が轟く外を窓から見つめるサンジの目に、ふと花子の笑顔が浮かび上がった。