第29章 俺の事なんて忘れて…
皆が寝静まった夜更けに花子は甲板で1人海を眺めていた。微かに聞こえる楽しそうな声に耳を傾けながら、ふと別れた彼等の事を思い出す。
(ルフィ君達は、もう着いたかな?)
海を照らす月はキラキラと輝き彼の髪と同じ色をしていた。もし、今彼がここにいたなら文句を言いながら料理をしているだろう。
「寝れねぇのか?」
「ロー君。」
後ろを振り返ればローが花子に近付いていく。風呂に入った後なのかその髪は少し濡れていた。
「風邪引くよ?」
「そんな柔じゃねぇ。」
本当に自分の事には無頓着だなと、ローの肩に掛けてあるタオルを手に取り屈む様に伝える。
「何を考えてた?」
「ルフィ君達、もうサンジ君と会えたかなって。」
わしゃわしゃと水気を取る花子の声は何処か寂しそうで、彼女の両手を掴みローは顔を覗き込む。
「…俺は、お前に気持ちを伝えるか悩んでいた。」
「うん。」
「あの人の本懐を遂げる為に俺は生きてきた。その為なら命も惜しくないと思っていた。」
その言葉に花子の身体がピクリと震える。時々見せるローの悲しげな表情。それは何処か儚げで消えてしまいそうな危うさがあった事を花子は感じていた。
「お前に気持ちを伝えて1人残す事が…怖かった。」
愛していると笑顔で死んだコラソン。あの時の絶望を花子に味あわせるのか…彼女を悲しませるのなら、この想いは閉まっておくべきではないかと…。
「だが…黒足屋に言われてな。」
ーその気持ち、ちゃんと伝えてやれよ。ー
「!」
サンジの言葉に花子は目を見開いた。何故、彼はこんなにも温かいのか…何故、こんなにも自分の事を…。
「お前が他の奴のもんになるなんて考えたくもねぇ。渡すつもりもねぇがな。」
「これ…。」
自分の首にあったネックレスを外し花子の首に着けた。それは、あの日彼女に贈ったグレースピネルのネックレス。
「お前が好きだ。」
「!」
「俺はお前を残していかねぇ。俺が死ぬ時は…お前も道連れだ。」
余りにも身勝手な愛情。しかし首に掛かったその重みが何故か花子には心地好く感じた。
(…ロー君、相変わらず勝手だね。)
(覚悟しろよ、2度と離さねぇからな。)
(…私の気持ちは?)
(そんなの知るか。)