第29章 俺の事なんて忘れて…
「俺のおにぎりに梅干し入れた奴は誰だ。」
「「「…。」」」
皆が朝食を食べている中、真っ黒なオーラを背にローが眉間に皺を寄せダイニングに入ってきた。手には皿に乗った大きなおにぎりが3つ。その1つは噛った跡があり具であろう梅干しが少し顔を出している。
「正直に言え。」
地を這う様な低い声にシャチがダラダラと冷や汗を流しながらチラリと花子に助けを求める視線を送る。多分、彼が間違って入れてしまったのだろう。不快感丸出しのローにこうなってしまうと暫くは不機嫌なままだと、思った花子は仕方無さそうに自分の食べていたおにぎりを皿に置いた。
「…お前が行く事ねぇだろ。」
「でも、このままだと連帯責任で皆がバラバラになっちゃうよ。」
そうなれば掃除、洗濯、食事を自分達がしなくてはいけなくなる。ゾロがそんな細かい作業をするとは考えにくい。ウソップ、フランキー、ロビン辺りは手伝ってくれるだろうが、ハートの海賊団は大所帯。とてもじゃないが手が回らない。
「ロー君、おはよう。こっちで一緒に食べよう。」
にっこりと微笑み手招きをする花子にゾロが甘やかすなと呆れる。しかし、機嫌を損ねた彼をフォローするのは結局花子になってしまう。だったら被害は最小限に押さえたいのが彼女の本音。
「ロー君、梅干しまだ食べれないの?」
「こんなもん食いもんじゃねぇ。」
昔から1日1粒の梅干しで医者いらずと言う言葉があるが、医者であるローにとっては憎き商売敵なのか?と、隣に座り顔を顰める彼に花子は自分の皿から1つおにぎりを差し出す。
「じゃあ、私のと交換しよ?これ私が作ったの。」
「…これは何だ。」
「小松菜とじゃこの味噌おにぎり。」
具材を炒め米と混ぜ合わされた色鮮やかなおにぎりは、以前サンジから教えてもらったレシピだ。差し出されたおにぎりをひと口噛ったローの顔が柔らかくなる。
「美味しい?」
「…まあまあだな。」
「そこは美味しいって言ってよ~!」
ローの機嫌が少し治り羨望の眼差しで見つめるシャチに苦笑いを浮かべ花子は梅干しが顔を出すおにぎりを見つめる。
(美味しいと思うんだけどなぁ…。)
好みは人それぞれだがあそこまで毛嫌いするか?と思いながら花子は大きなおにぎりにかぶり付いた。