第28章 欲張りなあの子
花子に史朗は自分達の事を覚えていたと言われたら時、ズキッと心が痛んだ。何故、彼の事を覚えていないのか…そう言われた気がして。しかし、彼女は責める訳でもなく優しく微笑んでいた。
ー…会いたいなぁ…。ー
史朗の最後の言葉を聞いた時、胸が張り裂ける思いだった。彼は死ぬ間際まで自分達の事を思っていてくれたのだと。
(ルフィ殿だけでも…伝えておくべきか…。)
彼が海賊王になり花子の記憶が消えてしまった時の喪失感…彼女の事を思い出した時の絶望に、あの強くも純粋な少年は耐えられるだろうか。
「あ?ここは何処だ?」
「…ゾロ殿?」
キョロキョロと辺りを見渡しているとゾロに錦えもんは首を傾げる。彼は別の場所で作業をしていた筈。
「おぉ、錦か。」
「何故ここに?」
何でも木を切っていて作業場まで運んだはいいが元来た道が分からなくなってしまったと言う。
「他の奴等もいたが…まったくあいつ等勝手にいなくなりやがって。」
「…。」
様は迷子である。多分、他の者がいなくなったのでは無く、彼が勝手に逸れたのだろう。壊滅的な彼の方向音痴に掛ける言葉が見付からない。
「…某も丁度これを運ぶところ。一緒に参ろう。」
「そうだな。…逸れんなよ。」
どの口が言ってんだと、出かかった言葉を錦えもんはゴクリと飲み込む。丸太を抱えた錦えもんはふとゾロに声を掛けた。
「…ゾロ殿は、花子殿事をどう思っておられる?」
「花子?」
「お主と花子は親しい間柄。ちと、気になってな。」
付き合いが浅い錦えもんから見てもゾロが花子を大切に思っているくらいには分かる。
「…花子が気になんのか?」
「む?」
「あいつは止めとけ。馬鹿でアホで無鉄砲、すぐふらふらとどっかに行きやがるから、お前の手には負えねぇよ。」
後、馬鹿だと散々な言い様に思い過ごしか?と疑問を抱くが、そんなものはすぐに取り払われた。錦えもんを見据えるゾロの瞳には花子に興味を持つな、手を出すなと言っている様に見える。
「いや、某と花子殿は日が浅いのでな。深い意味はござらん!」
「…そうかよ。」
刀を握らせれば敵無しのゾロも花子には敵わないのだろうと、明らかに安堵した顔をするゾロに錦えもんは1人ほくそ笑んだ。