第28章 欲張りなあの子
頭に流れ込んでくる象の声をモモの助が代弁する。巨象は大昔に罪を犯し、只歩く事を命令された。それ以上もそれ以下も許されず、遠い昔に命令されて以降ずっとそれを守り続けていた。【歩き続ける】事しか許されていない巨象は何もする事が出来ない。
「だから…命じてくれと…!戦え、と…!」
1度だけ許可をくれ。戦う事を…許してくれと…。必死にそう訴え掛けるモモの助にルフィが片目を開き声を上げた。
「お前が言え!モモ!」
「えっ…!?」
「お前の声なら届く気がする!象がやられたら俺達、皆海の底だぞ!」
「し、しかしどんな大声を出せば…!」
「いいから叫べ!このままだと象が死ぬぞ!」
必死に攻撃に耐える象の悲痛な鳴き声が島に響き渡った。このままではいずれ象の限界がくる。そうなればルフィ達のみならずこの国の全員が海に沈んでしまう。
「負けるな象…!倒れてはならぬ!っ…ジャックを…ジャックを追い払ってくれ!」
小さな身体から絞り出される様な叫びが響き渡る。モモの助の声に答える様に不安定だった地面が安定した瞬間、爆発音が彼等の鼓膜を刺激する。その音は数度続き聞こえなくなったところで、ようやく揺れが治まった。
「治まった…か…?」
「死ぬかと思ったぜ…。」
「だが、まさかこの象に意思があるなんてな…。そりゃ生きてりゃそれくらいあったって不思議じゃねぇが、何たって千年も歩き続けてるんだからな…。」
ホッと安堵の息を漏らした花子の頭にコハクの声が聞こえてくる。ジャックは海に沈んだと知り、さっきの爆発音は象が船を破壊した音なんだと理解する。
「ねぇ…コハク。」
『どうした?』
「ズニーシャは…何処に向かっているのかな?」
象は何を犯したのか、いつまで歩き続けるのか。それを知るものは誰もいない。さぁなと、ポツリと聞こえたコハクの声が妙に物悲しい。ひたすら命令に従い歩き続ける象がいつか許される事を、花子は秘かに願った…。
(花子…ごめんなぁ、落としちまって。)
(大丈夫だよ!)
(金輪際、麦わら屋は花子に触れるな。)
(何でだよっ!)