第27章 真実
ー史朗殿の事を…誰1人覚えていなかったのだ。ー
錦えもんの言葉が花子に重くのし掛かる。しかし、彼女は違和感を覚えた。誰も覚えていないのなら何故、錦えもん達は史朗の事を覚えていたのかと。
「某達も…おでん様すらも史朗殿の事は忘れておられた…。」
「じゃあ…何故…。」
「初めは…ちょっとした違和感であった…。」
1つ多い部屋、身に覚えのない着物。その違和感は日に日に大きくなっていった。何故、こんなにも寂しいのか…何故、いる筈の無い誰かに語りかけようとしているのか…。
「おでん様が史朗殿を思い出したのは、それから3つ月程経った頃だ。」
桜舞い散る"ワノ国"の中でも一等美しく大きな桜の木をおでんは訪れた。何かを失った様にポッカリと開いている心。自分は何かを忘れているのでは?と、そう思った時、ふと彼は目の前に広がる城下町を見下ろした。
ーおでん。僕達でこの国をもっと豊かにしよう。ー
誰かも分からない声が頭に響く。聞き覚えの無い筈なのにその声は温かく…懐かしい…。
ー出来る事なら…開国した"ワノ国"を君と見たかった…。ー
パンッと何かが弾ける音と共におでんは全てを思い出した。何故、自分は忘れていたのか…あんなにも大切だった弟を…友を…忘れてしまっていかのかと…。
「あの時のおでん様は…今でも忘れられぬ。」
ー史朗っ…!すまぬっ!ー
錦えもん達がいるにも関わらずおでんはその場に泣き崩れ何度も名を呼んだ。それからだった。おでんが何かに付けて史朗の名を口にする様になったのは。
「あの悪戯は史朗殿が考えたのだ、この茶屋は史朗殿が好きだった茶屋だと…。」
今思えばおでんは錦えもん達にも史朗を思い出して欲しかったのかもしれない。しかし、彼等が史朗を思い出す事は無かった。
「某達が史朗殿を思い出したのは…おでん様が処刑される日だった…。」
ーお前等ぁ…"ワノ国"を開国せよぉっ!ー
"ワノ国"を開国。それはおでんが史朗と交わした最後の約束。その時、おでんの思念が流れ込む様に、錦えもん達の脳裏に史朗と過ごした日々が甦ってきたのだ。
ー僕はね…花子。"ワノ国"のお殿様と兄弟なんだよ…。ー
花子が10歳の時に史朗は亡くなった。いつも穏やかな顔でそう自慢気に話していた事を花子は思い出した。