第3章 初上陸
花子 side
バーで出会った優しいお兄さんはマスターに何か紙を渡すとよろしくと言って私に近付いてくる。
「じゃあ、行くか。」
「はぁい!マスター、ありがとうございましたぁ!」
「また、いらしてくださいね。」
最後にマスターは何かお兄さんに念を押してるけど、当の本人は素知らぬ顔だ。仲良いなぁって思いながらお酒も入って上機嫌な私は鼻歌を歌いながら船着き場に向かう。
「はぁ~、今日は楽しかったぁ!」
「前見て歩かねぇと転けるよぃ。」
スキップをしている私の後ろでお兄さんは苦笑いを浮かべていた。仕方がないじゃない!こんなに気分がいいんだもん。
「ねぇねぇ、お兄さん!」
「ん?」
「ありがとうね!私の話聞いてくれて。後、可愛いって言ってくれて!」
お世辞でもやっぱり褒められると嬉しい。幸せな気持ちになる。その思いをお兄さんにぶつけてまた歩き出そうと前を向くと、ふらりと視界が傾いた。
「あれ?」
「っ!危ねぇっ!」
だんだんと近付いてくる地面。あぁ、やっぱり飲み過ぎたなぁ、カッコ悪いとこ見せちゃうなぁ、なんて思いながら襲ってくるだろう痛みに思わず目を瞑る。でも、いつまでたっても痛みは来ない。
「っとに、気を付けろぃ!」
「…お兄さん?」
痛みの代わりに私を包むのはお兄さんの逞しい腕。どうやら私が転ける前にお兄さんが受け止めてくれたみたい。
「ははは…ごめんね。ありが…。」
「…。」
顔を上げればお兄さんの顔が凄く近くに合った。目が逸らせず見つめているとゆっくりとお兄さんの顔が近付いてくる。
(あ…これは…。)
そう思ったと同時に唇に柔らかいものが触れた。それがお兄さんの唇だと理解するのにそう時間は掛からなかった。
「ん…ふぁっ、ん…。」
最初は優しく…でもそれは次第に深くなり、抉じ開けられた口に舌が滑り込んできた。
「ンんっ!はっ…ふン…!」
絡め取られる舌、久し振りの感覚に脳が痺れる。苦しくなってお兄さんの肩を叩くと名残惜しそうに唇を離された。
「なぁ…この後、空いてるか?」
「あ…。」
ギラリと光るお兄さんの瞳がまるで猛禽類の様に鋭くて、駄目だと思っても逃げる術を知らない私はコクリと頷いた。