第19章 桃色鳥にご注意を
花子 side
《もう戻れねぇって…どう言う事だっ?!》
突然の事にジルさんの狼狽える声が聞こえる。ごめんなさい…でもこうするしかないのっ。
「ミアさんと旅行の途中でね。凄く素敵なお店を見つけたの!そこの人が私の事気に入ってくれて…働かないかって。」
《そりゃあ、嬉しい事だがよ…随分急だな。》
泣くな、泣くなっ!泣いたらバレてしまう。震えそうになる声を必死に押さえ私は笑顔を作る。
「色々、遅れてごめんなさい。でも、いつまでもジルさんにお世話になりっぱなしも申し訳ないし!」
《…お前が決めた事だ。俺が言う事は何もねぇ。》
「ありがとう!私、頑張るねっ!」
ごめんなさいっ、ジルさん。でもね、私にはこうするしかないのっ!
《…花子。前にも言ったが俺はお前を娘の様に思ってる。》
「もう、急にどうしたの?」
お願い、まだ流れないで…。もし今流れてしまったら気持ちが押さえられなくなってしまう…。
《帰って来たくなったらいつでも帰ってこい!ここはお前の家だ。》
「っ!」
優しいジルさんの声に胸が締め付けられる。駄目っ…まだ泣いちゃ駄目っ…!
《たまには連絡してこいよ!お前はすぐ問題起こすからな!》
「そんな事ないよっ!」
きっと…ジルさんの声を聞くのもこれで最後…。
「ジルさん!大好きだよっ!」
せめて…直接言いたかったな…。
ーーーーーー
ガチャリと通信が切れた電伝虫は眠る様に目玉を垂れ下がらせた。最後の花子の言葉がジルの頭から離れない。
ー大好きだよっ!ー
ポロリと電伝虫の目から溢れた一粒の涙。何かに耐える様な震える声。
(何かがおかしい…。)
ミアから花子と旅行に行くと言われた時からジルは違和感を覚えていた。突然の花子の長期不在。それを見計らった様に現れた新しい従業員。全てが出来すぎている。
「花子…お前は何してんだよ。」
居場所を探そうにも一緒にいるミアとも連絡が取れない。こんな事なら番号聞いとくんだったと舌打ちを溢していると、突然店の扉が勢いよく開いた。
「ジルさん!大変だっ!」
何故、あの時花子が必死に気持ちを押し殺しているの事に気付かなかったのかと、ジルは唇を噛み締めた。