第19章 桃色鳥にご注意を
ゾクリとする冷たい空気に花子は身体が動かなかった。目の前に現れた人物にミアも恐怖に震えている。
「わ…か…さま…。」
「フフフッ!残念だったなぁ?」
「なぜっ…?」
「お前の事は昔からずっと見てきたんだ。様子がおかしいと思っていたら、こんな大胆な事をする様になるとはなぁ。」
お前も大人になったなと凄く穏やかな口調なのに、その内に秘めている怒りにひゅっと息を飲んだ。
「俺はお前を気に入っていたのに悲しいなぁ。」
「あ…っ。」
「最近こいつにばから構っていたから嫉妬でもしたのか?」
「ミアさん?!」
突然ミアがゆっくりと崖の先に近付いていく。このまま行けば下に落ちてしまうと花子が駆け寄ろうとするが、ドフラミンゴに後ろから抱き締められそれも叶わない。
「…もういいではありませんか。」
「…あ?」
「コハクは…スカイオルカは見付けました!だからっ、花子ちゃんは…自由にしてあげてくださいっ!」
恐怖に震えながらもミアが力強く言い放った時、ピキッとドフラミンゴの額に青筋が浮かび上がる。
「自由…か…。ヴィヴィアン、お前がそれを口にするとはな。」
「ミアさんっ!?」
ミアの足がまた1歩前に出る。足の下には地面が無い。必死に彼女に手を伸ばした花子は目の前の光景に目を見開いた。
「浮い、てる…?!」
崖に身を投げたミアの身体は重力に従う事無くその場に浮いていた。まるで操り人形の様に。
「若様…私は、若様の事をお慕いしておりました…。貴方の為ならこの命、捧げる事も惜しくない程に…。」
「…お前は、本当に可愛い奴だ。」
「?!」
ふわりと柔らかく笑ったミアの瞳からは一筋の涙が溢れ落ちた。その瞬間、彼女の身体を支えていた糸がプツリと切れる。
「ミアさぁあぁんっ!!」
下に落ちる浮遊感の中、ミアは彼と出会った頃を思い出した。
ーお前は俺の家族だ。ー
(若様…貴方に出会えて、私は幸せでした…。)
ードフィの事、頼むな…。ー
(コラ様…約束を守れず、申し訳ありません…。)
ーお前は…俺を裏切るなっ…!ー
(貴方の中にある闇を…私にも背負わせて欲しかった…。)
ー…お前は、本当に可愛い奴だ。ー
(愛してます…。)
ひた向きに1人の男を愛した女は海に消えていった…。