第18章 2度目の航海
花子 side
少し寂しくなってコハクとお話しようと船から身を乗り出すと突然後ろから誰かに抱き締められた。
「俺の人魚は海に帰るつもりか?」
「…シャンクスさん。」
驚いて顔だけ振り返ると困った様に笑うシャンクスさんの顔。その顔が置いて行かれる子供みたいで思わず彼の頬をそっと撫でた。
「何してたんだ?」
「少し疲れたからコハクとお話でもしようと思って。」
「そうか…。」
じっと海を見つめるシャンクスさんにつられ私もそちらに視線を移す。海面ではコハクが暇を持て余してか静かに泳ぎ、街灯など無い景色を照らすのは月の光だけ。
「花子…俺の女にならねぇか?」
突然の告白にシャンクスさんを見上げはっと息を飲んだ。燃える様な赤い髪は月明かりに照らされキラキラと美しく、私を見つめる顔はいつも戯けている様子では無く、真剣な眼差しをしていた。
「…ねぇ。1つだけ聞いていい?」
「どうした?」
「もし…もしね。私が何処か遠くに行ってしまったら…どうする?」
何でこんな事聞いてるんだろう。でも…この不安をどうしても無くしたかった。
「シャンクスさんでも辿り着けない様な凄く遠くに…。」
突然この世界に来たんだもん。もしかしたらまた突然元の世界に戻るかもしれない。
「行き方も…帰る方法も分からない。そんな場所に私が行ってしまったら…。」
元の世界に未練が無いと言ったら嘘になる。大切な家族や友達には会いたい。捨てる事なんて出来ない…。
「そうしたら…貴方は私を見付け出してくれる?」
「…。」
でも…全てを投げ出すには…大切なものを作り過ぎてしまった…。
「…必ず見付け出すさ。」
「え…?」
「例え花子が俺の手の届かない所に行っても…どんな手を使っても、お前を拐いに行く。」
私を見つめるシャンクスさんの瞳に迷いはなかった。優しく頬を撫でる手の温かさに堪えていた涙が一気に溢れ出した。
「っ私が…嫌だって言っても?」
「俺は海賊だぞ?欲しいもんはどんな手を使っても手に入れる。」
「…強欲。」
「覚悟しろよ。そんな強欲な海賊に目を付けられたんだ。何があっても逃がしはしない。」
ギラギラと鋭く光る彼の瞳にあぁ、とんでも無い人に目を付けられたなと思いながら、彼の言葉が嬉しくて近付いてくる顔にそっと目を閉じた。