第3章 初上陸
まだ皆が寝静まっている早朝。花子はキッチンで朝食の準備をしていた。
「なんだ、花子。早ぇなぁ。」
「おはよ~!」
この船のコックであるクジラは笑顔で挨拶をする花子の姿に目を丸くさせ、おはようと返す。
「今日、島に着くんでしょ?楽しみにしてたら目が覚めちゃった。」
「…餓鬼かよ。」
わくわくと目を輝かせる花子に呆れるものの、その無邪気な姿に可愛いなと顔を綻ばせている。
「なんか手伝う事あるか?」
「じゃあ、それを炒めて醤油と絡めて~。」
既に盛り付けられている料理に感心しながら花子の言われた物に目を移すと、思わぬ物にクジラは目を見開いた。
「これ…大根と人参の皮か?」
「そう!きんぴらにしたら美味しいんだよ。」
普通だと捨てる様な物。しかし、船の生活をしているとそれも貴重な栄養源。しかも、皮の方に栄養が詰まっている事も多い。
「お前…良い嫁さんになるな。」
「でしょ~?」
誰も貰ってくれないのよと、戯けてみせる花子にクジラはしめたと言わんばかりに笑みを浮かべた。
「俺だったら花子みたいな女、絶対ほっとかねぇけどなぁ。」
「嬉しい事言ってくれるねぇ~!」
じゃあ付き合っちゃうか!と笑いながら手を動かす花子にクジラはそっと手を伸ばす。
「あぁ、付き合「何してる。」
「あっ!ロー君、おはよ~!」
「キャプテン…。」
それは、それは地獄の底から這い出る様な声だったと、後にクジラは語った。後一歩と言うところでローに邪魔されジトリと彼を睨む。
「珍しいね、ロー君がこんなに早く起きるなんて。」
「たまたまだ。」
「もしかして、ロー君も上陸楽しみで目が覚めちゃった?」
「俺は餓鬼じゃねぇ…。」
火を止め可笑しそうに茶を入れる花子の頭をローは呆れた表情で撫でる。
(今回もキャプテンの勝ちか…。)
髪が乱れると文句を言いながらも彼の手にじゃれ付く花子の顔に、クジラは溜め息を漏らした。
(まっ…花子が笑顔ならいいか。)
初めは賭けから彼女に近付いたが知らず知らずの内に、クジラは花子に絆されいた様だ。