第14章 紳士の愛
サンジに抱き締められ花子は戸惑い彼を見上げていた。何故、彼がここにいるのか?何故、自分は抱き締められているのかと。
「あの…サンジ君?」
「っ、すまねぇ!」
パッと花子から身体を離すとサンジは気まずそうに頬を掻き煙草を咥えた。
「花子ちゃんが海に拐われて行っちまいそうで…。」
「えぇ~?私泳げるよ?」
意味が違うのだが…と説明すると花子は可笑しそうにくすくすと笑い海を見つめる。
「ふふっ!私が泡になって消えると思った?」
何て幼稚な考えだろうとサンジは恥ずかしくなったが、それ程までに先程の花子は儚く消えてしまいそうに思えた。
「…泡になって…消えてしまえばいいのに。」
ローへの気持ちが少しは軽くなったと言っても完全に彼女の中から消えた訳ではない。こんなに辛いなら泡となって消えてしまえばどんなに楽かと、花子は自嘲にも似た笑みを浮かべる。
「…なぁ、花子ちゃん。」
「ん?」
「君が何を想ってそんなに悲しんでいるか俺は分からない。でも…君のそんな顔を見るのは耐えられないんだ。」
俺じゃ支える事は出来ないか?と尋ねるサンジに微かに花子の瞳が揺れる。こればかりは時間が解決するのを待つしかない。
「サンジ君…私の話、聞いてくれる?」
ーーーーーー
花子 side
私はサンジ君に胸の内を明かした。私が違う世界から来た事、ロー君の事…。頭がおかしいと思われても仕方無い内容なのに、彼は何も言わずに聞いてくれた。
「じゃあ…君はそいつの幸せの為に身を退いたって事かい?」
「だってお互い気まずいでしょ?」
彼の幸せの為…そう言えば聞こえは良いかもしれないけど…私は逃げただけ。私以外に優しく微笑む彼を…私以外に触れる彼の姿を見たく無かった。
「君は…ずっと1人で耐えてきたのか?」
「!」
「よく分からない世界に飛ばされ、唯一の心の拠り所も失い…不安で押し潰されそうになりながらも…ずっとっ!」
ぎゅっとキツく抱き締められ私の中に溜まっていた何かがパンッと弾けた。
「だって…だって仕方無いじゃないっ!」
嫌われたく無かったっ!嘘でも私の居場所になってくれた彼の重荷になりたくなかったっ!泣きじゃくる私をサンジ君は何も言わずに、ずっと抱き締めてくれた。