第14章 紳士の愛
サンジ side
(くそ…俺とした事が。)
煙草のストックが無い事に気付き俺は町に向かった。目当ての物も手に入れ煙草に火を着けると肺に広がる煙に心地好さを覚えた。
「…ん?花子ちゃん?」
ふと視界の端に映ったのは見慣れた後ろ姿。声を掛ければ良かったんだが、ふらふらと何処かに向かう彼女が気になって俺は付いて行く事にした。
ーーーーーー
花子ちゃんの後を付いて行けば辿り着いたのは普通の浜辺。特に変わった景色でも無く何なのだろうと様子を伺っていると、だんだん波打ち際が青く光り出した。
(海ほたるか。)
バラティエにいた時も何度か目にした光景。彼女はこれを見に来たのか。折角の綺麗な景色だから美しいレディと一緒に見ようと近付くと、花子ちゃんがポツリと呟いた。
「ロー君…。」
「?!」
彼女から発せられた声は切なく…甘いものだった。花子ちゃんの瞳から流れる涙はどんな宝石よりも美しいのに…その顔は悲しみの色に染まっていた。
ー…秘密。ー
(また…あの顔だ。)
花子ちゃんのこの顔には覚えがある。俺が何故船を降りたのか聞いた時、彼女は笑顔を見せながらも今と同じ表情をしていた。
(君は…今もそいつを想っているのか?)
君を悲しませ、涙で光るその瞳にはそいつが写っているのか?
「待って…!」
「!」
波に拐われ離れて行く海ほたるを花子ちゃんは手を伸ばし近付いていく。何かに縋る様に…まるでお伽話の人魚姫の様に…海が彼女を拐っていっちまう様な気がした。
「花子ちゃんっ!」
気付けば俺は彼女の腕を掴み胸の中に抱き止めた。泡になるなんてそんな馬鹿げた事、ある筈ねぇが…今花子ちゃんを引き止め無かったら俺は後悔しちまいそうな気がした。
「サンジ君…?」
俺を見上げる花子ちゃんの瞳からは戸惑いと驚きからか、ポロリとまた涙が零れ落ちた。
(泣かないで。)
俺にとってレディは皆美しく愛すべき存在だ。だけど…花子ちゃんには特別な何かを感じる。
(君に…そこまで想われている奴が羨ましいよ…。)
なぁ…花子ちゃん。その悲しみに…俺が寄り添う事は出来るのかな?