第14章 紳士の愛
花子 side
(はぁ…全然、集中出来なかった…。)
ロー君の新聞を見てから私はボロボロ…。注文間違えるわ、グラスは割るわ…。見かねたジルさんが今日は帰れと云って上がらせてくれた。
(少し頭を冷やそう…。)
1人でいると色々と考えてしまいそうで私は家を出ると、夜の浜辺へと向かった。
「少し冷えるわね…。」
夏島と言っても今の時期は夜は少し涼しい。浜辺を歩いていると波打ち際で何かが光った。
「何だろう…?」
近付いて見ると海面が青く光り波に揺られて凄く綺麗で、その優しい光には見覚えがある。
ーロー君、見て!海が青く光ってるよ!ー
ー海ほたるだな。ー
ー海ほたる?ー
ー顎脚綱貝虫亜綱ミオドコパ上目ミオドコピダ目ウミホタル科ウミホタル属に属する甲殻類の1種だ。名前の由来となっている発光は外敵に対する威嚇で、刺激を受けると盛んに発光する。ー
ーへぇ~、貝なんだ~。ー
「ロー君…。」
ねぇ…貴方はまだ私の事を想っていてくれているの?捨ててしまえばいいのに…私の事を忘れずにいてくれているの?
「…そんなわけ無いか。」
あの写真のロー君は幸せそうで…あの子の事を本当に大切にしているんだと言う事が分かった。そんな都合の良い事を思ってしまう自分に呆れ情けなく思っていると、ふと頬を何かが流れ落ちる。
「あ…。」
何で…何で涙が出てくるの?もう平気な筈なのに…。もしロー君に会ったら大丈夫だよって…私は平気だから気にしないでって…笑顔で向き合うつもりなのにっ…。
「ロー君っ…。」
まだこんなにも私の中には貴方がいっぱいで…ロー君との思い出が残っている。ゆらゆらと海面を揺れる海ほたるが波に拐われゆっくりと離れて行くのが見えた。
「待ってっ…!」
お願い、まだ行かないでっ!これっきりにするから…これで全てを忘れるから…!だから…今はまだロー君との思い出に浸っていたいのっ…!
「花子ちゃんっ!」
「?!」
海ほたるを追って海に入ろうとする私の腕を誰かが引き寄せる。
「サンジ君…?」
ぎゅっと私を抱き締める温もりに顔を上げると、そこには焦った様な…苦しそうに顔を歪めるサンジ君の顔があった。