第13章 欲
結局2人の会話が気になり集中出来なかったゾロは何も買う事無く店を出た。
「何も買わなくて良かったの?」
「あぁ。」
まず買う金が無いと言う言葉は飲み込み曖昧に返事をする彼に、花子もさして気にする事無く手をゾロに差し出した。
「…何だ。」
「船、戻るんでしょ?」
「…その手は何だ!」
「ちゃんと捕まえてないとゾロ君すぐにどっか行くんだもん。」
この短時間で花子は彼の壊滅的な方向音痴を痛感した。見失ってしまえばそれこそ面倒になると、笑顔を向けるも差し出した手を怪訝そうな目でゾロは見つめる。
「餓鬼じゃねんだ!そんな小っ恥ずかしい事出来るか!」
「さっきも繋いだじゃない。」
「あれはお前が勝手にっ…て、おい!」
ぎゃあぎゃあと騒ぐゾロに面倒臭くなったのか花子は先程と同じ様に彼の手を握った。
「いいでしょ?この方が楽しいし!」
「…はぁ、今回だけだ。」
今度は振り払われる事無く遠慮がちに握り返された手に、顔を綻ばせると花子はゆっくりと歩き出した。
ーーーーーー
「うぅ~…最悪~…!」
「…。」
全身ずぶ濡れの状態の花子は1人愚痴を溢す。何故この様な事になったかと言うと、サニー号に向かっている2人を突然豪雨が襲う。船までは少し距離がある為、急遽花子の自宅に避難したのだ。
「びしょびしょだよ~…。」
靴を脱ぎ裸足のままペタペタと部屋に入る花子に対しゾロはその場から動こうとしない。
「早く入りなよ。今、お風呂沸かすからちょっと待っててね。」
「…。」
土足禁止ね、と言いながらタオルを渡す花子に無言でそれを受け取り、靴を脱ぐと案内されるがまま部屋に入り椅子に座る。
「通り雨だからすぐに止むとは思うけど…取り敢えず、服脱いで。」
「…はぁっ?!」
突然服を脱げと言われ顔を赤くしあからさまに動揺するゾロに花子は首を傾げる。
「何慌ててんの?服乾かすから脱いでよ。」
「…あぁ。」
何処かホッとした様子のゾロに花子はニヤニヤと意地悪い笑みを浮かべ彼を見つめる。
「なぁにぃ~?ゾロ君。もしかして…期待した?」
「ばっ…か言ってんじゃねぇっ!?」
あからさまに慌てた様子のゾロに花子はまた可笑しそうに笑い声を上げた。