第10章 真っ直ぐな瞳
花子 side
今日もジルさんのお店は賑わっていて慌ただしく店内を動き回っているけど、頭にあるのは今日のエース君の事。
ー花子っ…!ー
凄く切羽詰まった様なエース君に食べられると思いながらも拒む事が出来ず身体が傾いた時、タイミングが良いのか悪いのかコハクがザバンッと大きな水飛沫を立て海水を私達に浴びせた。
(結局、逃げてきちゃったんだよね~…。)
驚きからか一瞬力が抜けたエース君の身体を突き飛ばし私は無我夢中でその場から逃げ出してしまった。
「本当、いい気なものよね。」
どんな顔をしてエース君と会えば良いのか頭を悩ませていると、ボソリと声が聞こえた。そちらに目を向けるとお店によく来るお姉様方が睨み付ける様に私を見つめていた。
「シャンクスさんやベックマンさんがいなくなったら、今度は白ひげのエースさんに媚を売ってるなんて。」
「本当、本当!随分お尻が軽いんですねぇ~。」
「チヤホヤされてるからって調子乗ってんじゃないの?」
「…。」
彼女達は近くの娼館の人達でよくここにお客を見付けに来ている。ジルさんもお客さんに迷惑掛けずに食事をするんならいいと了承はしている。太客を横から掻っ攫った私の存在は彼女達にとってさぞ疎ましい事だろう。
「はなちゃん…気にする事ないよ。」
「うん、ありがとう。」
お店の手伝いに来てくれているカナちゃんが心配そうに私に声を掛けてくれた。
ーとんだアバズレだな。ー
(ロー君の言う事も間違いじゃなかったかもね…。)
女の世界で生きてきた私にとってはそんな事慣れっこだけど、ふとロー君から言われた言葉を思い出しチクリと心が痛む。
「もしかしてジルさんにも色目使ってるんですかねぇ?」
「まさか!ジルさん、奥様一筋よ?」
「分からないわよ?奥様が亡くなられてもう2年になるんだから…色々と寂しい事もあるんじゃない?」
「っ!」
くすくすと可笑しそうに笑う彼女達にカッと頭に血が上った。私の事なら何とでも言って構わないけど、ジルさんの事を悪く言われる事は許せなかった。
「あのっ!「随分と躾のなってねぇ奴等だな。」
一言文句言ってやろうと彼女達に近付けば私の肩を引き寄せる力強い腕。
「女の嫉妬は見苦しいぜ?」
思わぬ人物の登場に私は目を見開いた。