第10章 真っ直ぐな瞳
エース side
呑気にコハクにオレンジをやる花子を俺は何故か苛立ちを覚えた。こいつに何が分かる…!
「…お前は何も知らないからそんな事が言えんだ。」
「まぁ確かに詳しくは知らないねぇ~。」
「鬼の血を引いた子供だぞ!」
「えっ、何それ!めっちゃ格好いいんだけど!」
ケラケラと笑う花子の態度に思わず顔が歪むのを感じる。何で…何でそんなに笑ってられんだよ!
「私はその海賊王がどんな事をやってきたかは知らないよ。ぶっちゃけ興味無いし。」
「…。」
「でもその人の言葉で人が、時代が動いた。それって凄い事だと思うの。そんな人の子供だから、きっと真っ直ぐな人なんだと私は思うよ。」
真っ直ぐ海を見つめる花子の瞳に偽りが無く、こんな綺麗な目をする奴いるんだと柄にも無く思っちまった。
「お前…馬鹿だろ。」
「何、エース君。今日は妙に突っ掛かるね。生理?」
やっぱりこいつは馬鹿だ…。何も知らねぇ癖に知った様な口振りで…。でも、そんな花子の言葉が凄く心地好く思える。
「…じゃあよ、もしそいつに会ったらどうすんだ?」
「ん~…サイン貰う!」
「…他は?」
「握手して貰おっかなぁ~…あっ!ハグもいいかも!」
…なんかこいつと喋ってると今まで色々と悩んでた自分がアホらしく思えてきた。
(…好きなだけしてやるよ。)
まずはハグからか?俺は花子の肩を引き寄せ少し濡れた身体を抱き締めた。
ーーーーーー
花子 side
「エース君?どうしたの?」
「お前がして欲しいって言ったんだろ。」
いやいや、それは君じゃ無いよ!ぎゅっと私を抱き締めるエース君は甘える様に首筋に顔を擦り寄せる。初めは驚いたけど離す気が無さそうだから、私も彼の背中にそっと腕を回した。
(大きな背中だなぁ…。)
こんなにも逞しく大きな背中なのに、何故か今のエース君は小さく置いて行かれそうな子供の様に思えた。
「花子…。」
(あ…これは…。)
少し身体を離され彼が何をしようとしているのか分かった。
(流され易いなぁ…。)
拒まないといけないのに近付いてくる顔に自然と目を閉じた。
「っいったぁっ?!」
ドキドキと高鳴る胸を必死に抑えていると、彼の唇は私に触れる事無く…首筋を思いっきり噛まれた。