第8章 よそ見ばっかしてんじゃねェ
目の前の光景に、震える拳をただ握ることしかできないローはその場に立ちつくしていた。
少し前のこと、ガレーラカンパニーとの商談を成立させたローと他の2人はコノハとシャチが待つ広場へ向かっていた。
思ったよりも話の分かるアイスバーグのお陰でトントンと話が進み、はやる気持ちを抑えながらコノハの待つ場所へ着くと、何やら落ち着かない様子のシャチだけがそこにいた。
シャチの話を聞き終えたローはまさに鬼のような顔をしていた。
コノハが船に乗ってから、明らかに不機嫌でいることが減ったロー。
久しぶりに見る船長のその表情に、3人はただ黙って地面を見ていることしかできなかった。
一瞬、政府に連れて行かれたのではと思ったが、こんなに人が賑わっている場所で人攫いするほどヤツらも馬鹿じゃない。
コノハのことだ。
どうせ変な肉をまた買いに行ったのだろうと、昨日寄った屋台に足を進めると目に飛び込んできたのは信じられない光景だった。
人混みの中にいるのは、無邪気に笑いながら男と話すコノハ。
誰かに呼ばれたのか、辺りを見回すその男は立ち去る前にコノハの頭を撫でると彼女は嬉しそうに微笑んだ。
「ッ…。」
その表情に胸が締め付けられる。
ルフィが立ち去る瞬間コノハの手に持っていた肉を奪ったことなど、もはやどうでもいいロー。
ただ、コノハが他の男に見せる笑顔を見てその場から動くことはできなかった。
誰かを好きになったことがないというのは嘘で、あの男が本命だったら?
このままコノハの元へ行って、もしも拒否をされたら?
柄にも無くそんな事を考えていたローは、震える拳を更に強く握ると不敵な笑みを浮かべる。
いや、自分の元を去るならば、その足を切り落としてずっと側においてやろう。
例えあの男が迎えに来てもその首を跳ねるまでだ。
「フッ…。」
答えがこんなにも近くにあるのになんで気付かなかったんだと自嘲気味に笑うと、止まっていた足を前に進めるロー。
ローの気配に気付いたのかコノハがこちらへ振り向く。
一瞬驚いた顔をしたあと、すぐ目尻を下げるコノハ。
そうやってあの男にも笑っていたんだな。
腹の底で渦巻くドロドロとしたものは、誰にも止めることなどできない。