第1章 てめェ何しやがる
「さっきも言った通り、このネックレスはあなた達に渡します。ただ、私を殺す時はこのネックレスは手に持たせて下さい。私の…形見なんです。」
一度目線を手元に落とし、右手に持つそれを強く握りしめるとまた真っ直ぐな瞳でこちらを見る女。
「だけど、村の人たちの物はきちんと返してください。」
尚も真っ直ぐな瞳でこちらを見る女に、自分よりも他人の心配かとそのお人好しの良さに呆れて今日何度目かのため息を吐いた。
「…おい。俺は別にお前を殺すつもりはないんだが。…そもそもお前を殺したところで何の得にもならねェ。」
その言葉に勝手に殺されると思い込んでいた女は崩れるようにその場にへたりこむと、安堵したのか目に涙を浮かばせながら、気の抜けた顔で微笑んだ。
「……良かったあ…。」
まだ今日出会ったばかりの初めて見る女の笑顔。
なぜかその笑顔にローの胸がざわつく。
「ごめんなさい。安心したら涙が……」
腕の治療がなんとかと呟く女にローはため息を漏らした。
初めて女に噛まれた。そもそも男にだって噛まれた事がない。
噛まれた事と、殺されると勝手に思われた事に腹が立っていたが、目の前の女の顔を見た時、不思議にもその気持ちがどこかへ行った。
「……お前。腕の治療とか言っていたが、医者なのか?」
「…いえ。ただ、薬の知識はあります。小さい頃から薬屋を手伝っているので。」
そう言うと女は、流れる涙を拭きながら立ち上がろうとする。
「よいしょっ…、ってあれ?」
緊張の糸が切れたのか、女は再びその場にしゃがみこんでしまった。
「……おい、ベポ。この女を家まで運んでやれ。シャチとペンギンは、村に行って袋の中身を返して来い。」
今まで見た事のない船長の気まぐれな発言と行動にしばらく目を奪われていたクルー達だが、キャプテンが言うならと船から降りてくる。
「それじゃ、村に行って返してきます!ついでに酒場に行ってきてもいいすか?なーんて!!」
「構わねェが、面倒な事は起こすな。明日の朝一度船に戻って来い。」
絶対断られると思っていたのに耳にした船長の言葉に驚いたペンギン。
本当は自分が女の子を家まで運んでやりたかったと思うペンギンだったが、その言葉をなんとか飲み込むと、シャチと共に村へと向かって行った。