第1章 てめェ何しやがる
「おい、シャチ。さっきのムカつく野郎から奪った宝をもってこい。」
シャチを待つ間、ふと視線を落とすと今にも泣きそうな顔をした女が目に入る。
まだ泣くか。
ローがため息を吐こうとした時、船の上からシャチがローを呼んだ。
「キャプテン、宝持ってたッス!降ろしー」
言い終わる前に能力を使い、シャチの手に待つ袋を自分の目の前に持ってくるロー。
クルー達はローの隣にいる女と船長の行動が不思議で仕方がないようで、船の上から女と宝の入った袋を交互に見ている。
「…おい。お前の大切な物とやらは一体どれだ。」
ローの低く刺さるような声に体が跳ねるコノハ。
返してもらえるかもしれないと淡い期待を胸に、袋の中から自分のネックレスを取り出すと、自分を見下ろす男が口を開く。
「それか?」
首を縦に振ったコノハがお礼を言おうと顔を上げた時、ローによって手に持っていた物を奪われてしまう。
ローはネックレスを自身の顔の前に移動させると、まじまじと見ながら不敵な笑みを浮かべる。
「これは高く売れそうだな。」
ただ呆然と立ち尽くしていたコノハの体はその言葉を聞いた途端、勢いよく動いた。
ガリッ
コノハの行動に一同驚愕する。
船の上で見ているクルー達は体を乗り出して、今にも陸に落ちてきそうだ。
その行動を起こされた本人は一度驚いた顔をしたあと、痛みが発する自身の腕を確認する。
噛まれたであろう腕には、歯形がくっきりと残っていた。
「……てめェ何しやがる。」
挑発ともとれるその行動を起こした張本人に目を向ける。
そこにはさっきの泣きそうな顔をしている女ではなく、何か覚悟を決めたかのような真っ直ぐな瞳で自分を見ている女がいた。
右手にはついさっきまで自分が持っていたネックレス。
反対の手には宝の入った袋。あろうことかいつの間にか取られていたのだ。
「ま!まずは、噛んでしまったこと、……ごめんなさい。……痛かったですよね…。考えるより先に行動にでてしまったみたいで…。悪い癖なんです、本当に、ごめんなさい。」
いきなり深々と頭を下げる女。
咄嗟とは言え噛み付くなどという行動にも驚いたが、こんな状況で何を言うのかと思えば噛み付いた相手に謝罪をし、心配までしている。
何を考えているのか全く分からず自然とため息を吐いた。