第1章 てめェ何しやがる
ベポと戯れる女を横目に船に乗り込もうとすると、ちょっと待ってとその女がこちらを向く。
「良かったら、家に来ませんか?お腹すいてません?ある物でよければ、ごちそうしますよ。」
ごちそうというよりも腕のお詫びかなと困り顔で笑う女に、一瞬目を見開くロー。
なんの気まぐれか、あぁとだけ返したローは女の家まで着いていくことにした。
女に興味も無ければ、今日初めて会った女の家に何故この時行くことにしたのか分からない。
ただ、泣いている顔と笑っている顔を見た時、もう少し彼女を知りたいと思うローだった。
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「じゃあ、ボクはあの二人が心配だから村に行くね!もう、キャプテンのこと噛んじゃダメだよ!」
ソファーに横たわる彼女の頭を撫でるベポに、モフモフいいねーと笑う女。
こんな短時間でよくここまで仲良くなったなと思いながら、部屋の中を見渡す。
白と茶色で統一された部屋。一人で暮らしているであろうその家は、小さな彼女には大きく感じる。
「なんだか安心したら体が動くようになりました!良かったらこの薬使ってください。今からご飯作りますね!座って待っててください。」
ベポが出て行った後、ゆっくり立ち上がったと思いきや小走りで奥の部屋に進み、何かを持ってくる女。
その手には痛み止めであろう薬。
さっき言っていた事は本当なのかと納得した。
自分には必要ないし使う気もないが、渡されたまま返す気にもなれずそのままズボンのポケットにしまった。
安心したら体が動くようになったと言っていたその人物は、自分に背を向けたままキッチンに立っている。
さっきまで殺されると思っていた相手を家にあげて安心できるのだろうか。ましてや自分は男だ。
「…ハァ。」
その能天気さにため息を吐くと、ダイニングの椅子に腰掛けるロー。
家中にほのかに香る石鹸の匂いに不思議と瞼が重くなり、そのまま目を閉じた。