第1章 てめェ何しやがる
「悪いが、この宝は全て俺らが貰う。シャチ、船に積んでこい。」
バラバラにした体を元に戻し鋭い目つきで目の前の人物を睨むと、部下らしき人に指示を出す男。
観念したのか言われた本人は逃げるようにその場を去って行った。
黙って見ていた光景に、今さらながらも目を隠した方がいいのか、それともこのまま口元を覆っていた方がいいのかとアワアワしていたコノハ。
それでも諦められない。
持っていった袋の中には自分と村の人達の大切な物が入っているのだ。
怖そうな人だけど意外と話すと分かる人かもしれない。
頷いたコノハは意を決して草陰から身を出した。
「っ!?」
すると目の前にはさきほど見た光景と同じく、弱い物を見るかのように自分の事を見下ろす人物がそこにいて…。
このままじゃ殺される。
本能に従いもう一度草陰に隠れようと身を屈めた時、強い力で腕を掴まれ自然と体が固まった。
「は、離してください…!」
絞り出した声で言うと我に返ったかのような顔をしたその人物は、腕を離すと怪訝な目つきで自分を睨む。
「…おい。ずっとそこに隠れて何してた。まさか宝を奪うつもりじゃねェだろうな?」
蛇に睨まれた蛙とはまさにこのこと。
視線だけで人を殺せそうな男の低い声が耳に届くと、自然に肌が粟立ち、目に涙が溜まる。
だけど、みんなの大切な物を返してもらわないと。頑張れ私。
「う、奪うも何もっ!あなたが言うお宝は、そもそも村の人たちがあの男の人に盗まれた物なんです…!わ、私の大切な物もその中に入っていてっ……、でも!村の人たちの物を返してもらえるなら、私の物はあげますから……!」
言ってる途中から涙が止まらなかった。
体もガクガクと震え、この震えが恐怖から来るものなのかすら分からない。
「おい落ち着け。まず泣くな、面倒臭ェ…。…ついて来い。」
急に泣き出したから驚いたのか、男は視線を逸らし短くため息を吐くと、部下らしき人物が向かった方へと足を向けた。
どうしたらいいのか分からず、ついて行ったら殺されるんじゃないかと戸惑っていると、なにやら刺さるような視線を感じる。
視線の方へ顔を上げると、早くしろと言いたげな顔をした男と目が合い、自然と肩が窄まる。
「…っ。」
ここは大人しくついて行こうと下唇を噛み、震える足を前に出すと男も足を進めだした。