第1章 てめェ何しやがる
「うぅっ…。なんでこんな事になるのっ……。」
遂に溢れ出した涙がコノハの頬を濡らす。
それでも頭は動け動けと指令を出すので、必死に足を進める。
見えてきた我が家に少しホッとするも今はそれどころじゃないと急いで家に入ると、目の前の光景に下唇を噛むコノハ。
「やっぱり……。ない…っ。」
棚の上にいつも置いていたそれは跡形もなく無くなっていた。
突き付けられた現実に、立っていることで精一杯だ。
もう何もかも諦めようとその場に座り込もうとした時、外から悲鳴にも似た叫び声が聞こえた。
何も確証は無い。
それでも急いで家を飛び出したコノハは、いつもの小道を使い草陰に隠れながら悲鳴が聞こえる場所まで近付いた。
するとそこには見たこともないような光景が広がっていた。
オーラのようなものを自分の目の前に広げる目付きの悪い長身の男。
あろうことか、そのオーラの中ではバラバラにされた体のパーツが浮かんでいるのである。
「っ…!」
怖くて今にも声が出そうな口を覆い、ただその場を見ている事しかできない。
早まる心臓が聞こえないように体を丸めこもうとした時、地を這うような低い声が静寂を切り開いた。
「…まァ、なんだ……。お前はムカつく野郎だが今船に乗せている宝と、この村で奪った宝全てをくれるって言うんなら、命だけは奪らないでいてやる。」
「本当だな?!なら、全て宝を渡してもいい…!ま、まずは体を元に戻してくれ!!」
何やら交渉をしている2人にホッと胸を撫で下ろすコノハ。
どうやら自分の目の前で人が死ぬことはなさそうだ。
「話が分かるようで助かる。だが俺は疑り深い…。まずは宝を全て船に積んだら体を元に戻す。」
「っ!!なんだと!今すぐ戻せ!さもないとーー
「うるせェ。耳障りだ。」
コノハの気持ちとは裏腹に男は持っていた刀を振り下ろす。
一太刀で吹き荒れた風はコノハの前髪を持ち上げ、周りの木々を大きく揺らした。
風が止み、静かになるとコノハの目が大きく開く。
「っ…!」
バラバラに浮かぶ足であろうパーツには、男のさっきの一太刀によって傷がついている。
不敵に口元を吊り上げるその男にコノハの体がブルリと震えた。