第5章 また見惚れてんのか
22年住んでいた島の気候は年中暖かく、世間では春島と呼ばれていた。
ローから次の島に着くまでひと月かかると言われてから3週間が経った。
暖かかった気候もぐんと寒くなり、ここ最近ようやくローの言葉を思い出し、借りた服を着ている。
服を貸してほしいと言う私に、どうせ大量に持ってきた荷物の中には厚手の服なんて入ってないんだろうと見透かされ、クスクスと笑いながらも服を貸してくれる彼には感謝以外の言葉が見つからない。
「あぁ、寒い寒い…。湯冷めしちゃう。」
お風呂からあがると忘れてしまったのかズボンが見当たらなく、下着の上に貸してもらっているパーカーを急いで着ると、急ぎ足でローの部屋に足を運ぶ。
ノックをし、返事を待つも特に返答がないので入るねとだけ言い扉を開け中に入る。
こんな格好をしているのがローにバレたら、また怒らせて何をされるか分かったもんじゃない。
それでも優しいローは、キスとキスマークを付ける行為以上の事は何もしてこない。
「あっ、あった!」
膝の高さまで積まれている本の上に置かれたズボン。
手を伸ばし取ろうとした時、足に本が引っかかり鈍い音と共に勢いよく前に倒れ込んでしまった。
「っ痛ーーーっ。」
うつ伏せのまま顔を床に伏せ、膝に広がる痛みに顔をしかめていると勢いよく扉が開いた。
「……おい、そんな格好で何している。」
顔だけ後ろを向くと怪訝な目つきで自分を見下ろすローと目が合い、転んだとだけ一言言うと体を抱き抱えられベッドに座らせられる。
視界がいきなり変わり驚いていると、床に腰を落とし赤くなった膝を真剣な目で診察をするロー。
「…骨は折れてねェ。軽い打撲だ。」
言い終わるとローは顔を横に背きながら湿布を貼っていく。
慣れた手つきに関心していたが、なぜ顔を背ける必要があるのだろうか。
「あっ、ありがとう。…それで、なんでそっちを向いてるの?」
言われた言葉に一度私の顔を見ると、またも顔を背け今度は指を指すロー。
「…下着が目に入る。」
指を指す方向へ視線を落とすと、ローに借りたパーカーを着ているものの、下にはズボンを履いていなく、ベッドに座らせられ膝を立てているため、前に座るローには必然的に見えている自分の下着。
しばらく2人の間に沈黙が流れた。