第4章 生まれて初めて一目惚れというやつをした
「…っ、気を遣ってくれて、ありがとう。」
正直危なかった。
顔を隠す手を掴んだ時、確かに震えていたコノハの手が己の理性を繋ぎ止めた。
今だってギリギリな自分に、知ってか知らずか笑顔を向けるコノハ。
「えっと…、聞きたかった事と伝えたかった事って、その…」
さっきのキスでその前に話していた事を忘れたのか。
細かく説明をしないと面倒な事になりそうだ。
「…ったく。なんで俺に力を使ったのかと、薬屋のじじいに俺が来るからってだけでもう一度盛大に歓迎しろと言っただろ。なんの理由があってそう言ったのか、この2つが聞きたかった事だ。じじいの話に関してはお前の気持ちが明白になったから、もう聞くまでも無ェ。…伝えたい事は…、もうさっき言ったはずだ。」
耳を赤くしながらバツが悪そうに言うローがなんだか愛おしくなり笑ってしまう。
「…ふふふ。ローさん、本当にありがとう。…弱くて頼りない私だけど、船員として頑張るから、コキ使いまくってね!」
船員として、か。
まだお前に説明しなきゃいけねェらしい。
「船員としてじゃねェ。俺の女として船に乗れ。」
突然ローから飛び出した言葉に一度目を丸くしたコノハ。
背筋を伸ばし目尻を下げると照れ臭そうに笑った。
「…っ、はい。」
「明日の朝、迎えに来る。それまでに荷物の準備をしておけ。荷物は最低限でいい。次の島で必要な物は揃えてやる。」
そう言うと家を出て行ったロー。
緊張の糸が溶けたのか一気に体の力が抜けるコノハ。
私、ローさんと両思いってことでいいんだよね?心がとても温かい。
明日、この島を出るんだ。夢が叶うんだ。
ローと出会うきっかけを作ってくれたネックレスを手に取り、首に付けると急いで荷造りを始める。
数時間前の足取りと、今の足取りが随分違う。
今まで本気で人を好きになった事がない自分が、この気持ちに気付いたのはコノハの言葉があったから。
自分だけが彼女を好きなのだと思い、柄にもなく傷付くのが怖くて蓋をするかのように否定していた自分の感情。
それが今はどうだろう、嘘のようにコノハに対して様々な感情が湧き上がる。
今日こそ朝帰りをするとクルー達に思われていたロー。
その日の夜、島中にクルー達の悲鳴が鳴り響いたとか鳴り響かなかったとか。